ゼンマイ式倉庫

フカミオトハが適当にいろいろ置いたり喋ったりするブログです。 リンクフリーです。あまりそういうものはないかもですが一応R18。

カテゴリ: 憑依

途中で止まったままかなりの(何年もの)期間があいてしまい、続き書く気が全くなくなってしまった没小説から、それなりにまとまってるものを供養しようシリーズ。

いつもの憑依もの。いつものというが、かなり初期に書いたやつ。

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SWITCH(仮題)

 高崎優花はいつも、携帯電話のアラームで目を覚ます。一度では起きられないのでスヌーズを設定して、鳴り出してからたっぷり三十分はためらってやっと布団から抜け出すことに成功する。それが優花の、いつもの朝だ。
 これは家族に大変不評で、だいたいいつもスヌーズの途中で一度声をかけられる。中学にあがった時部屋に鍵を取り付けたから、無理矢理起こされることこそないが、扉の向こうからかけられる家族の声が優花にはうっとうしくて仕方がない。
 だが、この日はそんないやな思いをせずにすんだ。
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 単刀直入に言おう、憑依能力を手に入れた。
 どうやって手に入れたかって? そんな細かいことはいいだろう。そういうのは真面目でお堅いやつがやってくれる。話は早いに越したことはない。大事なのは結果だ。
 憑依能力――言葉の通り、異なる他人に憑依する能力だ。肉体から魂が(あるいは意識が)抜け出し、標的のカラダを奪う。感覚も意識も全てを奪う。違う他人を乗っ取るチカラだ。
 難点は相手を選べないこと。
 範囲は決まっている。だいたいこの町か、せいぜい隣町くらいの中から完全にランダムで相手が選ばれるのだ。
 だが大抵の場合は問題ない。なぜならこれは『異性に憑依する力』だからだ。女だったらなんでもいい、なんでも。細かいこととか悩ましい葛藤とかは真面目でお堅いやつにお任せだ。大事なのはマンコだ。考えてもみろ、ブスだから感度が悪いってことはないんだぜ。どうせ自分の顔は自分じゃ見えねえんだ。
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 便意とは自分勝手な恋人だ。
 こちらの都合を全く考えず、来てほしい時には全然来ないくせに、絶対に来てはいけないという時に限って唐突に現れて体と心をめちゃくちゃに振り回す。最悪だ。DVだ。今すぐ別れるべきだ。健康で安定した食生活と睡眠が必要だ。
(――それができたら、苦労しない!)
 というわけで、早朝の満員電車の中、時原桐花は腹を抱えていた。これが爆笑の比喩だったならどんなによかったか。もちろん、文字通り両腕で腹を抱えこんでうめいているのが現実だった。なにも喩えていない。そのままだ。
 出がけに飲んだスムージーがいつになく効いたのか、それとも季節の変わり目でおなかが冷えたのか、あるいは理由なき胃腸の反乱か――いずれにせよ、改札を通る瞬間の肛門のうずきはもはや痙攣に近くなっており、打ち上げられた魚のようにせわしなく開閉を繰り返す菊門はいつ決壊してもおかしくない。下腹部はゴロゴロと遠雷のような唸り声をあげて、臓物を雑巾絞りするような鈍痛は渦を巻きながら三日分のナニを押し出そうとしている。これが寝起きの自室で起こったのならば、諸手を挙げて喝采したものを!
(死ぬ――このままじゃ死ぬ!)
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 ペンが落ちた。
 机の上でカラカラと転がる百均のシャーペンは、教科書にあたって動きを止める。落ちた拍子に、ノートの端に鉛筆の跡が残ってしまった。
(……なんだ?)
 心中つぶやいて、私はかすかに首を傾げた。授業中に小手先でペンを遊ばせて、結果机に落としてしまうのはいつものことだ。しかし今の一瞬には違和感があった。
 指が動かなくなった、ような。
「……?」
 わきわきと五本の指を動かしてみる。指は思った通りに動いた。気のせいだろうか。落ちたペンを拾ってノートの端にさらさらと文字を書く。あいうえお。うん、いつもの字だ。
(気のせいかな)
 顔をあげる。退屈な授業はのろのろと進み、黒板がちまちまと埋まっていく。私はどちらかといえば不真面目な生徒だと自分を疑っているが、板書をとる程度にはやる気がある。結局これはまじめってことなのかな。
 アヘン戦争とかいう地獄に地獄を重ねてイギリスをぶっかけたみたいなひど過ぎる歴史を文字に起こしているうちに、またしてもペンを取り落とした。どうしたのだろう。拾う。書く。落とす。拾う。書く。落とす。なんだ? これはもう明らかにおかしい。病気か? 私死ぬの?
 余命宣告にあらがうように、もう一度ペンをとる。ノートに向き合って気合いをいれると、いつものように指先を動かした。さらさらとペンは動き、

 ――おまえ を うばう

「はっ?」
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 第三金曜日の放課後は『部室』に集まることになっている。
 いつ、どこで、だれが決めたのかはわからないが、ずっと昔からそうと決まっているらしい。遊びにはルールが必要――これは今の部長の言葉だったか。
 『部室』は駅から歩いて十分ほどの住宅街にある。六階建てワンルームマンションの、最上階の角部屋。スーパーはやや遠いがコンビニが目の前にある便利な立地で、俺はいつもこのコンビニで飲み物やらを買っていく。オートロックの入り口を合鍵で開けて、エレベーターにもぐり込む。狭苦しい箱の中で独りになると、俺はかすかに息をついた。別にまだ何もしていないのだからビビる必要はないのだけど、ここに来るたびに妙に緊張する。
 六階のボタンを押すと、かすかな揺れのあとにエレベーターが上昇しはじめる。さして新しくも豪華でもないが、立地は悪くない。借りたらなかなかの値になりそうだが、月々の家賃も、光熱費も、全部部長が払っているというから驚きだ。
 部室――とは言うが、もちろん部活動とは関係ない。俺は帰宅部だし、メンバーのほとんどがそうだ。放課後に群れる駄弁り部屋というのが実情に近い。
 だがそれも、正確ではない。
 チン、という高い音とともにエレベーターが停止する。鈍重に開く扉をくぐって廊下に出ると、まっすぐ目的の部屋に向かう。エレベーターの反対側、非常階段のすぐ隣、他の部屋と少しだけ広く間隔をとった角部屋――何をやってもバレない、そういう場所。
 心臓が高鳴っている。スマートフォンを取り出して連絡アプリを起動する。特に誰からもメッセージは来ていない。つまり、今日も開催しているということだ。
 この活動に予定はない。時間も決まっていない。第三金曜日という慣習に従って、みんな黙って集まるのだ。もう何度も来ているのに、今更のように手が震える。カチカチと鍵と鍵穴がぶつかりあって音を立てる。まるで臆病者の俺を笑っているようだった。
 無理やりブチ込んで嘲弄する鍵穴を黙らせると、俺はドアノブを捻った。ゆっくりと開く。人ひとりがすべりこめる最低限の空間ができると、意味もなく周囲を確認してからそそくさと部屋の中にもぐりこんだ。
「うわっ……」
 とたん、濃密な匂いが鼻を直撃した。
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