ゼンマイ式倉庫

フカミオトハが適当にいろいろ置いたり喋ったりするブログです。 リンクフリーです。R18。

カテゴリ: 憑依

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 廃工場には誰もいなかった。時間が早すぎたのだ。
 正真に連絡して、ボンとふたりで夜に来ることと、それ以外の連中は今日は来させないように頼んでおく。こういう時、自分のパスワードさえわかっていれば端末を問わないSNSは便利だ。
 近所のコンビニで買ったパンを食って、二度ほどオナニーをしながら待つと、二人がそろってやってきた。いつもの溜まり場に突然全裸の知らない女が現れたのだ、警戒してしかるべきだと思うが、ボンは鼻の下を伸ばして駆け寄ってきた。こいつ大丈夫かよ。
「おつかれ、正真。オレだ、ジンだ」
 というわけで、オレは事情を説明した。
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 不況のあおりを食らって操業が止まり、持ち主が逃亡して取り壊しもされないまま宙に浮いてしまった工場――そういうおあつらえ向きの場所が、この町にはいくつかある。工業地域の再開発に失敗した市政のツケだ。
 そこは不良やら悪ガキやらのたまり場になっている。もちろん本来は立ち入り禁止だが、そういうルールを無視するから不良なのだし、悪ガキなのだ。
「ジンさん、三高の連中、まだ調子コいてますよ。ぶっとばしましょうよ」
「うるせえな。なんでもかんでも暴れようとするんじゃねえよ」
 というわけで、その日もオレはテリトリーにしている廃工場で仲間たちとつるんでいた。特別何をするわけじゃない。以前にはクスリをキメてる連中もいたが、オレが全員ぶっとばした。
 工場はそう広くない。教室二部屋分くらいのスペースがあるトタン壁の町工場で、半分ほどのスペースは何に使うのかもわからないでかい機械が、残りのスペースのうちやはり半分ほどは資材が埋め尽くしている。自由に使えるのは四分の一だ。しかし、このくらいがちょうどいい。ここに椅子やらテーブルやら懐中電灯やらを持ち込んで、夜毎にだべっているのだ。
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 僕が一宮日夜子と出会ったのは、中学校二年生の時だ。卒業式だった。
 出会ったというのは正確ではないか。僕が一方的に彼女を知ったのが、というべきだ。
 中学校の卒業式――三年生の先輩方を送り出す正門前で、一宮は真っ赤な顔で第二ボタンをもらえないかと頼んでいた。地味なふたつしばりで面白味のない眼鏡をかけた、スカート丈の長すぎる女子。それが一宮だ。相手は当時人気のあったバスケ部の先輩で、お前それは無理だろうと誰もが思っただろう。
 事実無理だった。
 先輩は笑いながら(笑いながらだ)、彼女がいるからと断った。一宮は泣きそうな顔で、それでも笑顔で、めいわくかけてごめんなさいと言ったのだ。
 かわいいと思った。かわいそうだと思った。
 それが僕と一宮日夜子の出会いで、僕の、たぶん一目惚れの瞬間だった。
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 バレンタインデーとかいう製薬会社に踊らされたアホどもの祭りを心底軽蔑していた私が二月十三日の夜に必死こいてチョコレートを湯煎しているのがなぜかと言われれば、それはもちろん彼氏ができたからに他ならない。
 彼氏ができました!
 いやほんと、世の中っていうのはいつだって予想を裏切る驚きに満ちていて、満ち満ちていて、私ってば制御できない感情の渦に翻弄されっぱなしなのだ。はあ、アキラ君とそういう関係になるとはね。アキラ君なんかと。三年前の私に言っても信じないだろう。殺されるかもしれない。
 告白されたのが初詣で、つまりバレンタインデーは二人にとって最初の大きなイベントだ。滾る。ここで盛り上がらなければ現役JKやってる甲斐がないってもんだ。
 バレンタインデー最高! チョコレート万歳! 製薬会社の陰謀とか、モテないやつのひがみだよね!
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途中で止まったままかなりの(何年もの)期間があいてしまい、続き書く気が全くなくなってしまった没小説から、それなりにまとまってるものを供養しようシリーズ。

いつもの憑依もの。いつものというが、かなり初期に書いたやつ。

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SWITCH(仮題)

 高崎優花はいつも、携帯電話のアラームで目を覚ます。一度では起きられないのでスヌーズを設定して、鳴り出してからたっぷり三十分はためらってやっと布団から抜け出すことに成功する。それが優花の、いつもの朝だ。
 これは家族に大変不評で、だいたいいつもスヌーズの途中で一度声をかけられる。中学にあがった時部屋に鍵を取り付けたから、無理矢理起こされることこそないが、扉の向こうからかけられる家族の声が優花にはうっとうしくて仕方がない。
 だが、この日はそんないやな思いをせずにすんだ。
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