←(2)

---------

4.交合
(う、う、うう……ひどい、ひどいよぉ……)
 椋鳥玲は泣いていた。
 意識だけの彼女には涙を流すこともできないが、それでも確かに泣いていた。目の前で友人がいたぶられ、辱められ、挙句友人がそれを受け入れ――しかも、その陵辱全てを玲自身の肉体が行っているのだ。あまりのことに、魔法使いの感情はメーターを振り切ってしまった。
4.交合
(う、う、うう……ひどい、ひどいよぉ……)
 椋鳥玲は泣いていた。
 意識だけの彼女には涙を流すこともできないが、それでも確かに泣いていた。目の前で友人がいたぶられ、辱められ、挙句友人がそれを受け入れ――しかも、その陵辱全てを玲自身の肉体が行っているのだ。あまりのことに、魔法使いの感情はメーターを振り切ってしまった。
(想魔……想魔! なんで、なんでことになったの……)
 ことここに至れば、これが、玲のカラダを奪ったコレが想魔なのだと彼女にもわかる。最初からそれ以外の可能性はなかった。想魔は直接危害を加えない。環境を捻じ曲げるだけのはずだ。器を乗っ取るなんて聞いていない。
 けれどそれは現実に起こっていた。あるいは、封印が失敗していたのかもしれない。うまくいったと思っていたけれど、何か致命的な間違いがあったのかもしれない。今となってはそれもわからない。全ては過去のことだ。
 わかっているのは、玲がカラダを奪われ、一美が辱められたということだけだ。
(領域を侵す――こいつらは、わたしのカラダを、わたしの世界を、侵しているんだ)
 どうしようもない。指一本動かせず、表情ひとつ思うままにならない。顔を真っ赤にして横になる一美は、中途半端に着ていた制服も、おもらしで濡れてしまった下着も脱いで、全裸になって玲を見つめている。
(う、ううっ……)
 なぜ一美はこんなにも素直に身をゆだねているのか、玲にはわからない。相手が玲だからかもしれないし、あるいはそれこそ想魔によって捻じ曲げられているのかもしれない。そう、今が何時なのか正確にはわからないが、これほど騒いで誰も保健室に来ないのはどう考えても異常だ。
 たまたま、運悪く、誰も保健室に用がないのだ。保健医も同じで、今日に限って偶然、用事があるのだろう。これがまさに、想魔による現実の歪曲だ。
 せめてもの救いは、一美が悦んでいることだった。それが想魔のせいだとしても、泣きわめくよりはマシだ。アフターケアは必要だろうが、玲は自分にできることならなんでもするつもりでいた。
 もっともそれも、今この場をどうにかできてからの話だ。
「んふ」
 想魔が笑う。一美がそれを見て困ったような笑みを返した。それはわたしじゃないんだと叫びたかったけれど、玲にはそれもかなわない。
 玲の肉体は一美を見下ろしたまま膝立になって、両手を黒いセーラーワンピースに沿わせた。一美は既に裸だが、こちらはまだ服を着ている。両手をつうっと下におろして下方のボタンを全て外すと、そのままスカートの内側に手をつっこみ、焦らすようにゆっくりと下着を抜き取った。
(うっ……)
 覚悟はしていた。一美がそうされたように、自分の肉体も陵辱されるのだ。ぬるりと透明な液が垂れる下着は、ぐっしょりと濡れていた。
(やだ、やだよ、たすけて……)
 心で悲鳴をあげながら、それでも玲は必死に考えた。どうにかできないか。魔法は使えないが、せめて師匠に連絡をとれれば助けてもらえる。どうにか、一美だけでも逃がすことはできないか。声だけでも出せれば。片手だけでも動ければ。どうにか、どうすれば。
 にちゃり、とあらわになった秘洞に二本の指が入り込む。くちゅくちゅと奥をかき回して、それから、
(――えっ?)
「えっ?」
 それから、玲の右手はソレを取り出した。
 ぬらりと黒光りする得体の知れない物体。粘性が高いようだが、しっかりと形を保って屹立している。太く、長く、凶悪に反り返るソレは、知識の乏しい女子高生たちですらそうとわかるほど明確に男性器を模していた。
(な、なにそれッ!?)
 ソレは玲の股間から伸びていた。よくよく見るとうねり、蠢き、流動しながら形作られている。膣道に充満した粘液が、秘奥をじゅくじゅくと刺激していた。
「そ、それ、それで、それ、ええ――?」
 一美の方はすっかり混乱しているようだった。無理もない。玲ですら何が起こっているのかわからないのだ。だが、突如生えた器官がなんのためにあるのか、それだけは二人とも直感していた。
(犯す気だ!)
 玲のカラダで、一美の純潔を奪う気なのだ。
(やめて、やめて! もうやめてよ!)
 自分が穢されるならまだいい。まだ耐えられるし、なにより自業自得だ。だが一美は違う。彼女は魔法使いでもなければ、想魔について何かを知っているわけでもない。ただの女の子だ。きっとこれから恋をして、たくさん幸せになるはずの女の子なのだ。今は想魔に影響されて喘いでいても、きっと後悔する。絶望する。裏切られて、汚されたことを泣くときがくる。
(いやだ、いやだ、いやだよ! だれか助けて!)
 心で泣いて、わめいて、叫んで――それでも誰も助けにこない。そんな夢物語みたいな現実はありえないし、あったとしても、歪められている。
「あ、あの……うう……」
 怯えたように身を縮こまらせる一美に覆いかぶさって、屹立する粘液棒が少女の秘部に押しつけられた。ぬるりと恥丘に跡を残して狙いを定める。一美のそこは十分に濡れて、呼吸にしたがってかすかに震えている。ぬちっと唇を割り開き、それは少女の入り口に首をもぐらせた。
「あ、あの、ごめん、やっぱり、」
 一美がその時なんと言おうとしたのか、玲にはわからない。その言葉を待たずに、椋鳥玲の肉体は少女を貫いたからだ。
 
「いっ、ああああっ!」
(ひぁああああっ!?)

 狭い道をくぐりぬけ、そこを遮っていた薄い何かをひきちぎる。存在しない器官が締め付けられる異様な感覚に、玲は声にならない悲鳴をあげた。心臓にまとわりつく違和感――嫌悪にも似たその感情は、しかしすぐに消えた。組み敷かれ貫かれている方にしてみれば、それどころではないと気が付いたからだ。
 一美はきつく目をつむり、下唇を噛んで震えていた。その表情から快感じみた何かは読み取れない。ただ純粋な激痛だけが彼女を苛んでいるようだった。
「ンッ、ふう……!」
 処女の緊張などまるで意に介さず、ソレは一気に最奥までその身を突き込んだ。それ自体がぬめる粘液でできた陵辱器官は、ぐじゅりと音を立てて思いのほかスムーズに一美のナカに辿り着く。
「はっ、はっ、あ、い、いたっ、痛いよっ……」
 しかし、それはやはり突き込む側の考えだ。十分に濡れていたとはいえ、一気呵成に貫かれた一美のほうはたまったものではないだろう。ためていた涙をぼろぼろとこぼしながら、全身を固くして震えている。
 一美の緊張はカラダの内側を通して、嫌になるほどはっきりと玲にも伝わった。少女の肉体から首をもたげ、親友のナカに潜り込んだソレが、きつく締めあげられているのだ。まるで処刑装置があげるような、ギリギリという音を幻聴する。そのくせ、一美の膣は背筋が震えるほど温かく、やさしく、やわらかく、心地よかった。
 ぬちゅっ――
 玲が腰を引くと、聞くだけで心が痺れるようないやらしい音が響いた。腰を進めれば、じゅぷっ――と淫音が弾ける。溢れる蜜と弾ける音が響き合い、耳朶からすべりこんで脳髄をとろけさせていく。
「いっ、う、ううっ、んっ、いうっ……あっ、はぁっ……!」
 そのたびに苦痛のうめきをあげる一美も、少しずつ頬を赤く染めて、甘い音色を声に交えはじめていた。
 淫靡な吐息が保健室をめぐる。一美だけではない、玲の口元から漏れる声もすっかり蕩けていた。膣から生えた粘液器官は一美のナカを蹂躙しながら、同時に自らが根をはる魔法使いの膣もまさぐっているのだ。
(うっ、ふぅ、ふぁあ……っ)
 玲だって年頃の女の子だ、性的なことにもそれなりに興味がある。自分で触ったこともあるし、それで達した経験だってある。経験豊富だとはいわないが、まるで無垢というわけではない。
(ぁあっ……これ、なにこれぇ……っ! 自分でするのと、全然……っ)
 だが、いま少女のナカを駆け巡る感覚はこれまでのどんなモノとも違っていた。その大きさも、鋭さも、性質も、全てが違う。ふわりとカラダが浮き上がり、じっとりと広がっていく常の快感ではない。強烈な刺激が脊椎を直撃し、そのまま全身を痺れされる激感だ。
 何かを入れたことはあっても――何かに入れたことはない。
 自分が他人の肉体に潜り込むという感覚は、人生に類を見ない異様だった。挿入しているのはカラダの一部、それも本来ならば玲の肉体には存在しない器官だ。だというのに、神経が通っているとしか思えないほど鮮烈で明瞭な刺激がソコから送られてくる。まるで全身が包み込まれているようだ。
 同時に、玲の内側を貪る粘液触手から与えれる刺激もまた未知のものだ。膣壁に絡みつくそれはほのかに温かい。少女ふたりの体温が伝播しているようだった。
(ミノピンの温度だ――)
 ぐちゃぐちゃと音をたてて少女穴をほじくりながら、玲は恍惚とした吐息を漏らした。貪りながら貪られ、犯しつつ犯されている。眼下で喘ぐ一美もいつの間にか苦痛の色をひそめ、舌を放り出して快楽を求めている。気がつけば、自分から腰を振るありさまだった。
「あっ、ふぁあっ、ぁあっ、むっく、むっ、ぁああっ……ッ」
 あの一美が、親友が、自分の下で自分のことを呼びながら蕩けている。倒錯的で、刺激的で、おそろしいほど官能的な光景だった。征服しているという実感が、じゅぐりと玲の子宮を締めつける。
(だめだ、これ、だめっ……がまんできないよぉ……っ!)
 むき出しの胸を揉みしだきながら、一心不乱に腰を振る。玲のカラダを動かしているのが想魔の悪意なのか、それとも自分自身の劣情なのか、もう玲本人にすら区別がつかなかった。彼女のものだったはずの領域が、いつのまにか想魔のそれと重なっている。
 それこそが想魔による浸食なのだと――未熟な魔法使いは気がつけない。
「あぁっ、あ、あぁあっ、ふぁあぁああっ……ッ!」
 びくりと腰を跳ね上げて、一美がひときわ大きい嬌声をあげた。両脚を玲の腰にからめるようにして、全身を硬直させる。指先が何かを求めるようにわななき、重ねられた玲の掌を強く握りしめた。
 瞬間、きゅううっと音が聞こえるかと思うほど強く、一美の膣が収縮した。奥の奥まで突き込んでいた粘液棒が絞めつけられる。これまで何度も未知の、凄まじい感覚に震えてきた玲だったが、この瞬間の刺激は次元が違った。
 これまで責め続けていた凌辱器官が、この時ばかりは弄ばれる側になって震える。ダイレクトに伝わる感覚は玲の意識を一瞬で制圧した。まるで子宮が絞り上げられているようだ。性感という性感が悲鳴をあげて、これまで絶頂だと思っていた段階を軽く飛び越えていく。
(いッ、あぁ、あぁぁああぁ――――ッ!!)
 出る。
 直感に次いで、玲は一美のナカに情欲を吐き出した。カラダの中心、性感の源からナニカが迸り、神経過敏になった粘液器官の中心を疾走する――それもまた激烈な快感を灯った。目の前がチカチカと虹色に瞬いて思考能力が奪われる。放尿の瞬間の解放感を何百倍にもしたような放出の快感は、女性である玲には一生味わえないはずのものだ。
 どぷっ、どぷっ……
 一美の子宮に欲望が注がれていく。錯覚だとわかっていはいたが、それを実感してしまう。一体自分が何を吐き出したのかすらわからないまま、玲は大きく深い吐息をついた。
「ぁ、ぁああ……」
 ぶるりと腰をふるわせたのを合図にしたように、一美が全身から力を抜いてベッドに倒れた。ピクピクと痙攣する膣は互いの愛蜜でぐちょぐちょに濡れていたが、精液じみたものは見えない。おそるおそる視線をおろすと、玲の股間もまた蜜が糸を垂らすばかりで、おぞましい粘液棒は消え失せている。
「お、おわった……?」
 思わずそうつぶやいて、玲は口元に手をやった。
 ――声が出る。
「み、ミノピン!」
 喋れる。動ける。解放されたのだ。
 それが『射精』後ゆえの一時的なものなのか、それともこれで完全に解放されたのか、それは玲にもわからなかったが、ともかく助かった。
 今すぐ師匠に連絡を取って、一美を介抱する。ぐずぐずしてまた想魔に侵食されるなんてことがあってはならない。手遅れになる前に、このチャンスを活かすのだ。
 玲はそう考えた。それは正しかった。間違っていたのは、状況の認識だ。
「――あハ」
 行動しようとした玲の耳に、甘くとろけて、深く滲む、淫靡な泥のような声が聞こえた。視線を向ける。全裸のまま上半身を起こした一美が、うっとりとした目でこちらを見ている。
 その指先は自分の股間にもぐりこんで、先ほどまで犯されていた秘処を自ら嬲っていた。想魔から解放され、冷静になった魔法使いにとって、親友のその姿は見るだけで心を切り裂かれるような酷いものに映った。
「ミノピン、待ってて、今……」
 手遅れになる前にこのチャンスを活かす。その考えはあっている。ただ、手遅れというのならば既にもう、この瞬間が手遅れだった。

 ずるり、と。

 簔鳩一美の陰唇を割り開いて、どす黒くうねる粘液の塊が顔を出した。
「……えっ」
 どこにどうつながっているのか、血管じみたものを浮き上がらせたソレは、獲物を探すように屹立し、ビクリと震える。愛おしそうに指先で自らの股間に生えた異物を撫で上げて、
「こうたい、しよ」
 ニタリ、と一美は笑った。
「……うそ」
 世界が音を立てて崩れていく。やっと取り戻したカラダの感覚が消えていく。快感に浮かされ、流され、自分がいったい何を彼女のナカに解き放ったのか――玲はやっと理解した。
 想魔は領域を侵すもの。
 玲を蹂躙したソレは、次の領域へと、標的を移したのだ。

**

 保健室に、か細い嬌声が響いている。
 ストレートの黒髪を乱して、線の細い少女が一心不乱に腰を振っている。スマートな肢体のわりに胸だけが冗談のように大きく、そのくせバランスは保っているという奇蹟のような肉体だった。前後運動に合わせて、たぷんったぷんっと揺れる柔乳は、まるで独立した別の存在のようですらある。
 その少女に組み伏せられて、ほどけかけのみつ編みを暴れさせながらもう一人の少女が喘いでいた。細い腰をつかまれ、尻を掲げさせられ、むき出しになった秘部めがけてソレが打ちこまれるたび、敏感に背を震わせて声を漏らす。
「んっ、うっ、うぅっ……」
 自ら尻を高くあげる羞恥姿勢のまま、顔をベッドに埋める少女はぼろぼろと涙をこぼしていた。唇を噛み締めて、どうにか声を殺そうとしながら、しかし果たせずにいる。
「ンふっ、ふっ、ふあっ、ふふっ」
 腰を振る方は蕩けるような笑顔を浮かべて挿抜を繰り返している。常の彼女を知っている人間が見たら、まずは自分の目を疑うような異様な光景だった。
 ふたりの接合部から、どろりと白濁した淫液と、それと混じりあう赤い処女血が垂れている。女同士の凌辱を可能にするのはヌラリと黒光りする粘液器官で、ふたりの膣を同時に犯すソレは両者の蜜と血とで斑に染まっていた。
 それはまるで――蓑鳩一美の愛蜜が、椋鳥玲の純潔を侵食しているようだった。
「うっ、ぅう……んんっ、う、ふぁ……っ」
 必死になって声をおさえながら、椋鳥玲は絶望していた。痛みにではなく、凌辱にでもなく、それに快感を覚える自分自身にだ。
 処女を破られた時は、文字どおり身を裂くような痛みがあった。友人を犯して、友人に犯される失意もあった。だがそれらは瞬く間に膣を焦がす淫熱に溶けてしまった。
 泣いても事態は好転しない。チャンスは巡ってこない。喘いでいるような場合じゃない――しかし、それでも、カラダの内側、最も敏感な場所を衝くその淫感には抗いようもない。
「んんっ、んぁっ……!」
 止めようと思っても、涙も喘ぎ声も止められない。そこにいるのはもはや神秘を手に悪意と対する魔法使いではなく、ただただ悲劇を嘆くだけの少女にすぎない。
 椋鳥玲は魔法使いで――同時に、ただの女の子なのだ。
「んんぁあぁっ!」
 ひときわ強い突き込みにおとがいを反らして、玲はまた甘い叫びをあげた。背後の一美がクスクスと笑う。玲を嘲り貶めるその声は、同時に一美を侮辱する声でもある。
「ふぅ、う、ううぅう……っ」
 想魔に肉体を奪われ、望まぬ淫宴に蕩けながら、それでもつい先ほどまで玲のナカは未踏のままだった。淫粘液の触手に弄ばれはしたが、決定的な一撃は避けられていたのだ。
 だから玲は気づかなかった。そもそも、処女だった彼女にはわかりようもない。
 思うようにならない自分自身のカラダが親友を辱める異常な体験。ないはずの陵辱器官で女を犯す禁忌の快感。それらが少女の膣をジワジワと炙り、とろかしていたことも。ドロドロになった媚肉がその先を欲して震えていたことも。辱めても犯しても埋まらない場所が、女の奥の奥に眠っていることも――それがとうの昔に目覚め切っていることも。
 なにもかも、玲にはわからなかったのだ。
「んああっ! ふかっ、深い……ッ!」
 ずじゅっ、と血と蜜のまじりあうピンク色の淫液をまき散らして、一美がまた強く腰を打ちつける。やわらかい尻肉が震えて、ビリビリとおなかの中にまで衝撃が響く。長いおあずけに涎を垂らしていた玲の奥は、貪欲に口を開いて待ち焦がれた雄をしゃぶりたてる。
 かつて戯れに指をいれた時とも、さきほど粘液触手にいじられた時とも違う、強烈で決定的な刺激だった。
 嫌悪も忌避も、痛みも失意も、なにもかもが快感に流されていく。それに絶望していたことすら忘れてしまいそうだ。
 一美の笑い声が聞こえる。何を笑っているのだろう。
「きもちい? きもちい?」
 甘い声が背筋を撫でる。これは想魔の声だ。断じて一美の言葉ではない。そうわかってはいたが、蜜悦に浸された玲の脳は半ば以上考えることを放棄している。
「んっ、ぁあ……きもちいぃ、きもちいいよぉ……っ」
 何を言ってるんだろう。
 自己嫌悪する気持ちは残っていたが、そこから奮起することはできそうにない。気持ちいい。だって気持ちいいのだ。どうしようもないほどに感じている。顔をうずめるベッドは涙と涎でぐちゃぐちゃだったが、それが辛くて、悲しくて、悔しくて流れたものではないと、もう玲はわかってしまっている。
 あまりの快感にこぼれた涙だ。
「あはっ、ははっ、むっく、きもちいい? きもちいいの?」
「きもちいい、ごめんなさい、きもちいいのぉ」
「うふ、あはははっ!」
 ぐちゃぐちゃと悲鳴じみた淫音を響かせてふたりのカラダが踊る。玲のカラダをクルリと回転させて正面から向き直ると、一美は淫蕩な笑みを浮かべて親友の唇を奪った。
「んんっ、ふ、んふ……」
 にちゃり、とやわらかい温度が舌先を撫でまわし、口内を犯す。体温と快感を交換するキスに、じゅぐりとおなかの下あたりから悦ぶ声が聞こえた気がした。
「むっくかわいい……どうしようもないね、むっくは。へんたいだね」
「……ぁ、ああ……」
 想魔が自分を『ムック』と呼んでいることにも、その言葉が流暢になっていることにも玲は気づいていたが、その意味までは考えられない。こうしている今も一美の意識があのカラダには残っているのかもしれないことも。
「ね、出していい? むっくのナカに思いっきり。むっくがしたみたいにしていい?」
 どうして断ることができるだろう。
 そうする意味も、意思も、玲にはない。むしろそれを望んですらいた。快楽の結実として、あるいは贖罪として。
「おねがい……」
 少女の懇願に、一美は笑みを深くして腰に手を回し、かすかに持ち上げると勢いよく腰を振った。ぱぢゅっと桃淫蜜がまたも弾けて、蕩けきった保健室に卑猥な音を響かせる。
「んっ、ふぁっ、ぁああっ! みのぴん、みのぴん……!」
「むっく、むっく、きもちよくなって、うけとめて!」
「んあっ、ぁああっ、ふああああぁああっ!」
 挿抜の音と、親友の声と、自らの喘ぎと。混然一体となった淫音が全身をめぐり、カラダの中心で弾ける快感がそれに引火する。燃え上がる神経を抑える術はない。揺れて、乱れて、蕩ける世界の中で、玲のカラダは快楽に翻弄されながら、同時にそれを貪っている。想魔が笑っている。一美が笑っている。自分も笑っていたかもしれない。
「むっく! いっていいよ、きもちよくなっていいよ! いって、いって、ほら、イって!」
「あっ――」
 その瞬間、子宮の中で何かが炸裂した。一瞬で全身を制覇する悦感の波が、炎上する神経を煽って炎を爆ぜさせる。イっていい――その許しだけが、溶けた思考を制圧した。
「いっ……く! イく、いっ、いっちゃううぅ――――ッ!」
 絶叫して、少女はきゅうっと身を縮こまらせた。全身が震えて、痺れて、喘いで、達する。次の瞬間、何か熱く、どろりとしたモノが玲の奥の解き放たれた。とけた意識の中で、どぷっ、どぷっ、という放出音を幻聴する。かすかに目を開けると、呆けたように涎を零す一美が、絶頂の余韻に震えていた。
「みのぴん……」
 これは、誰の声だろう。まるで友人を慮るような声だったが、それが自分の声だとは思えない。そんな資格は椋鳥玲にはない。
 身も心も堕して、快楽に染まってしまった自分には。

5.侵略
『……で、その後はどうなったんだ?』
 暗い部屋だった。
 窓には暗幕がかけられ、扉は締め切られている。電灯もついていない。机の上に置かれた蝋燭の灯りだけが頼りだ。
「その時点ではもうカラダが自由なわけですから……魔法でどうにかしましたよ」
『完全に侵食された肉体から、想魔を追い出したのか? お前が? 追放の魔法なんて教えてないだろう』
「師匠、弟子ってのは成長するものですよ」
『はあん』
 部屋には少女がひとりきり。みつ編みに眼鏡の野暮ったい女子高生――椋鳥玲だ。蝋燭に向かってひとりごちる彼女に、しかし何もない虚空からきちんと声が返ってくる。
『ま、異常がないならなによりだ。私がそっちに行けるまで三日はかかる。その間になにかあったら、すぐに連絡しろよ』
「もちろんです。頼りにしてますよ」
『はん、封印失敗はともかく、処女を奪われた直後にぶっつけで追放なんて真似ができるなら、もう独りでも平気だろ。お友達のほうはちゃんとケアしてるんだろうな?』
「なんとか」
『ならいい。しばらくは想魔も結実しないだろう。ゆっくりカラダを休めておけ』
「はあい」
 気の抜けた声に舌打ちのような音が返って、やがて声は途絶えた。玲はしばらく蝋燭を眺めて、ふう、と息をつくとそれを吹き消した。
 部屋は完全に暗闇に包まれたが、彼女には関係ない。
 指先すら見えない昏黒の中、「いいよ、ミノピン」と入り口に呼びかける。カラ、と扉が横に滑って、外から差し込む光が暗く狭い部屋を両断した。
「おわった?」
 扉の向こうには、玲の同級生にして親友、被害者にして、加害者にして、共犯者……蓑鳩一美が待っていた。ストレートの黒髪を揺らす彼女は、一目でそうとわかるほど、既に蕩けていた。
 頬を上気させ、息を乱し、スカートの内側に指を這わせている。
「うん、おわったよ。それじゃ……ンふ、今日もしよっか?」
「うん、はい、おねがい、おねがいします――想魔さん」
 たらりと涎を垂らして、一美が哀願する。後ろ手に扉を閉める一美に応えるように、玲は立ち上がるとスカートをめくりあげた。下着をつけていないむき出しの秘部から、ずるりと黒い粘液棒が顔を出す。さんざんにふたりを嬲ってきた凌辱器官は、今日も隆々と天を見上げている。
「いつも通り、一回やったら交換ね。そろそろ、ひと、増やそうか?」
「なんでもいいから、早く、はやくしてください」
 あわただしく服を脱ぐ一美に笑いかけて、玲は親友を抱き寄せた。
 ――想魔による侵食は、止まらない。
 もはや人と変わらぬ認識と知識を得るに至った想魔は、現実を歪めながら肉体を乗り換える侵略存在となった。魔法使いが訪れるまでの三日で、こんな学校は制圧されてしまうだろう。
 それを防げるかもしれない唯一の存在は、抗う気力を根こそぎ奪われている。肉体を空け渡し、淫器官をふりかざして親友の膣をほじくる感覚にひたすらに喘いでいる始末だ。
 そうしてこの後には、立場を逆転して犯されるのだ。
 暗室に満ちる媚香と淫音。やがてこれが校舎全てを覆う頃、はたして自分はどうなっているのか、魔法使いであることを放棄した少女にはわからない。
 今はただ、快楽に身を沈めて喘ぐだけ。それが侵略され、敗北した者の末路だった。

アグレッション・ソーマ_end.