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3.乳辱

 ――保健室だ。
 目が覚めてすぐに、玲は自分がどこにいるのかを把握した。保健室には縁の薄い生活を送る玲だったが、そもそもこの校舎は魔法使いの領域だ。現在位置の把握なんて行動の前提のようなものだ。
(うごかない)
 そしてその次に、体の変調を確認した。足も、指も、眼球すら微動だにしない。ぎょろりと視線だけが動いて周囲を観察する――自分ではない誰かが、自分のカラダを使って。
(きもちわるい……)
 激しすぎる3D映画を見て映像酔いをしたような気分だった。しかもこれは現実なのだ。違和感も忌避感も尋常ではない。
 のそりとした動作でカラダが起き上がる。この間にも玲は魔法の知識を総動員して対策を講じているが、そもそも新米の魔法使いには無音声無動作での魔法の発動はできない。体が動かないという時点で打開策はないのだ。
(手があったかい……誰かが)
 触れている、と思うのとほぼ同時に、視線がそちらを向いた。動かない右手をしっかりと握って、少女がひとりベッドに突っ伏している。黒髪が白いシーツの上に広がって、頭を預けたまま寝息をたてているようだ。目覚めを待つうちに眠ってしまったのだろう。まなじりには、かすかに涙のあとが見えた。
(ミ――)
 血の気が引いた、という表現は、果たして正しいだろうか。
 意識だけの玲は、その全存在を硬直させた。
(ミノピン!)
 あたりまえだ。考えるまでもない。椋鳥玲が倒れたら、簑鳩一美がそれを放置するはずがないのだ。彼女は友人の目覚めを喜ぶだろう。心配して、一緒にいようとするだろう。想像もしないに違いない。少女の肉体を、悍ましい呪いが乗っ取っているなんてことは。
(起きて! 逃げて! やめて、やめろ!)
 玲の掌がそっと動いて、くしゃりと一美の頭を撫でた。むずかるような声をあげて、一美がかすかに身じろぎする。「むっく……?」とその口元からあやふやな言葉が漏れた。
(逃げて!)
「ムック、起きたの? だ、だいじょうぶ? どこもいたくない?」
「ん……」
 一美は今にも泣きだしそうな顔で病床の友人にすがりついた。腕をつかむ両手が震えている。心配したのだろう。
「んん……」
 対する玲のカラダは唸るような声をあげながら一美の髪を優しくすいている。これほど繊細に扱うことはさすがにないが、ある意味では普段の玲と一美だ。心配をかけた友人をいたわっている、そういうふうに見えるだろう。
「ムック……」
 一美もされるがままに目を細めて、玲のことを見つめている。ほう、と口元からこぼれたのは安堵の息か。仲睦まじい親友の微笑ましい風景だ。
(はなせ、一美をはなせ!)
 そう思わないのは玲本人だけだ。自分自身のカラダに閉じ込められたまま、玲は必死になって叫び続けた。だがその声はどこにも届かない。そもそも実際には叫べてすらいないのだから。
「ンふ」
 一美の頭を撫でながら、内心の叫びを嘲笑うように少女の肉体が声を漏らす。一美は気づかない。だが、カラダの中にいる玲は、それが悍ましい欲望に染め上げられた舌なめずりのように聞こえた。
「ムック?」
 髪を撫でていた手が止まる。一美が友人をまっすぐに見つめ、
「えっ――」
 その頭がガクン、と後ろに傾いた。
 一美の両の目が驚きに見開かれ、次いで痛みに歪んだ。玲の右手が髪をつかみ、思い切り後ろに引っ張ったのだと、玲本人ですらそう気づくまでに数秒の時間が必要だった。
 そしてその数秒のうちに、椋鳥玲のカラダは次の行動を起こしていた。
「んっ、んうっ!?」
(んぐっ、ん……っ!)
 まず温度、次に感触、驚きは、今度は最後だった。やわらかくあたたかい、湿り気のある何かが唇をふさいでいる。なにが、という疑問が驚きを追いかけて、すぐに答えを得た。
「んっ、んんっ! んっく……ムック!」
 あわてた一美の手が、むりやり顔を引きはがす。あまりにも突然の行為に、一美は明らかに困惑していた。それは玲も同じだったが、不可解そうに歪められた一美の表情は、強く玲の心を穿った。
 一美の唇をふさいだのは、玲のそれだった。
 今、彼女の目に自分はどんなふうに見えているのだろう。おぞましい化け物か。気の狂った変人か。いや、わかる――きっと、物足りなそうに友人を見つめる淫乱に見えているに違いない。
「ど、どうし――んんっ!」
 質問も抗議も受け付けず、玲の意志すら無視して、肉体が再び親友の唇を奪う。頭を抑えられている一美は逃れることもできない。ちゅぷっ、と唾液のはじける音が聞こえた気がした。
「んっ、ん……ふっ、う……」
(ん、んん……っ)
 カラダは全く動かせないが、その感覚だけは意識のみとなった玲も受け取っている。肉体がないのに感覚だけがあるのは異様というしかない未知の体験だったが、魔法使いである玲は器と精神の切り離しそのものには慣れている。
 問題は受け取る感覚の種類だ。はじめてのキスは優しかった。唇を触れ合わせるように優しく、互いの形を確かめるように丁寧に、そして、体温を交換するようにゆっくりと。かすかに開いた唇から吐息が漏れ出し、絡まり合って流れていく。気が付けば、いつの間にか一美は眼を閉じて力を抜いている。この異様な体験に身を任せているようだった。
(どうして……いや、そうか)
 玲にはわかる。うぬぼれではなく、ふたりの友情を確信している玲にはわかってしまう。
 一美は信頼しているのだ。
 椋鳥玲は自分に危害を加えないと信じている。玲に恋愛感情を持ったことはないだろう。玲だってそうだ。だけど、もしかしたらもっと強い気持ちならあるかもしれない。どういうつもりなのかわからない。それでも拒絶するほどの嫌悪はないのだ。
 玲ならば。相手が玲ならば、許せる。
 だからひとまず玲に任せようと、そう一美は思っているのに違いなかった。
 言うまでもない――その信頼は間違いだ。
(ひどい……こんなの、あんまりだ…はなして、やめて、やめてよォ!)
 何もわかっていない親友の唇を半ば無理やりに奪っている――同時に、自分の唇を奪われている。複雑な状況は背徳感をいやまして玲の心を締め付けていく。
「ん、ん、ンうっ……ふ……」
「ふゥ、んん、んぅ……」
 長い口づけは徐々に二人の感覚を溶かしていく。どうしてこうしているのかなんて些末な疑問は忘れさられて、互いの唇だけが世界の全てになっていく。こぼれる二人分の吐息が保健室の中に充満して、時間感覚が濃密に圧縮されていく。
(う、ふう、ミノピン――)
 玲ですら、状況の危機感を忘れそうになったころ、

 ぬるり――

 触れ合う唇の隙間から、得体の知れない異物が割り入った。
 それはあたたかく、唾液にまみれていた。くねくねと身をよじりながら口内に侵入し、怯えて縮こまる舌に絡みついて睦みあう。粘膜をこそぎながらほほの内側をつつき、歯茎をこすりあげてまた舌へ襲いかかる。そうして、まるで別個の生き物のように蹂躙する。
(これ、べろだ)
 身を寄せ合う舌と舌が互いを刺激するたび、ビリビリと首のうしろから後頭部にかけて甘い電気が流れる。思考が帯電する中、玲は心中で叫び声をあげた。
(私のべろだ!)
 そう、襲っているのは玲のほうだった。カラダを動かせない玲は、もはや自身と一美の境目すら見失っている。なにせ襲われているのが自分だという認識も間違っているわけではないのだ。
「ん、ふっ、ふゥン、んうっ……」
 執拗な舌愛撫に、最初こそ体を固くしていた一美も力を抜いて身をゆだねはじめた。唾液と唾液が混じりあい、舌の上で弾ける音がちゅぱちゅぱと響いている。時折こぼおれる二人の吐息は、もはや隠しようもないほど淫密な空気をまとわせていた。
(これ、なにこれ、キスってこんなに……)
 互いの内側にもぐりこんだ二人の先端は、既にどちらともなく相手を貪り合っていた。カラダを自由にできない玲はもちろん、一美すら唾蜜をまとった舌をなまめかしく口内で踊らせている。流されているのではなく、自分から快楽を求めていることはもはや明らかだった。
 ちゅぷちゅぷと淫音が聞こえる。もっと深く、もっと強く、互いに肩を抱いて、二人はより大きな快楽を求めて身を寄せ合う。互いに唇に吸いつき、口元からぼたぼたと涎をこぼしながら、何度も何度も舌を巡らせる。
「んふぅ、ふぅ、んん、んんっ……」
「はっ、ぁふ、ふむぅ……んっ、んっ……」
 舌と舌の競演が、やがてじわりと下腹部に熱を灯らせる。流れ込んだ唾液が媚薬となって、子宮を焙っているかのようだった。もしも今、玲が自分のカラダを動かせたなら、きっとじっとはしていられなかった。はしたなく自身のカラダを掻き抱いて、指を暴れさせていただろう。
 ――事実、一美はそうだった。


 簑鳩一美は混乱していた。ずっと混乱しつづけている。
 最初は玲の行動に。次に未知の感覚に。そしてその感覚に陥る自分自信に。
 今や一美ははしたない感情を隠そうともせず、ふとももをすりあわせ、身をよじりながら、何かに耐えるように玲の肩を強くつかんでいる。はじめてのキスは一美のとぼしい知識をはるかに凌駕する絶感の嵐だった。
 長い長い口舌性交で舌がまともに動かせなくなり、涎まみれの顎が震えて唇を合わせることすらままならない。そこまで来て、二人はようやく互いを解放した。
「はぁ、は、ふ、ふぁあ……」
「ふぅ、ふっ、ぁあ、あ……」
 熱のこもった吐息の中をぴくぴくと痙攣する舌が離れ、ぬらりと透明な橋がかかる。キラキラと互いの舌をつなぐその淫靡な光が、一美に考えることを許さない。頭の中はぼんやりとかすんで、視界すらおぼろげだ。
「むっひゅ……」
 名前を声に出しても、ろれつが回らず形にならない。曖昧で胡乱な世界で親友が微笑んだような気がする。一美にだって、この状況が異常なことはわかっている。それでも、何がおかしいのかがわからなかった。
「ん」
 黒いセーラー服のボタンを外しながら、玲がほんのすこしベッドをあけた。あがれと言われているようだ。呼ばれたからには、行かなければ。
「うん」
 ふらふらとベッドの上にあがって、一美はよこたわった。口の中は疲労感でいっぱいで、痺れているみたいな不思議な感覚。けれどもっと不思議なのは、指一本触れていないはずのカラダの中心だった。ジンジンと奥の方で何かが響いている。早く、早くと急かしている。
「んふ」
 笑顔を浮かべて一美に覆いかぶさると、玲は軽く触れるだけのキスをした。さっきまでの濃厚さはまるでないが、心が満たされるような口づけだった。
 親友の指がポチポチと制服のボタンを外していく。宝月女学園の制服はワンピースタイプのセーラー服だ。前合わせのボタン留め。あっという間に全てのボタンを外すと、玲は大切な贈り物の包装を解くように、ゆっくりと制服を左右に開いた。
 ひやりと冷たい空気が肌を撫でる。
 眼鏡の奥の視線が、じっとりと一美のカラダを辿っていく。首元から鎖骨へ、ハーフカップのブラジャーに守られた大きすぎる胸を通って、無駄な肉のついていないおなか、ひっそりとくぼむ臍、きちんとブラジャーとおそろいになっている下着まで。その視線と肌に触れる冷気が、「見られている」と一美に強く実感させた。
 一美にとって、大きな胸はコンプレックスだった。セックスシンボルとして見られることには嫌悪しか覚えなかったし、胸ばかり大きくてバランスが悪いと思っている。宝月女学園においては男性との接触は極端に少ないが、その数少ない機会にすらいやらしい視線を感じてきた。
「ン……」
 その胸を、玲の両手がすくいあげるように触れた。寝そべってもあまり横に流れないハリのある双乳は、親友の手でカラダの中央に寄せ合られる。ぷにゅっとやわらかい音が鳴るのを聞いた気がした。
 女子同士の戯れで胸を揉み合う光景は見たことがあったが、一美も玲もその手の悪ふざけには参加しない。一美がコンプレックスを抱いていることを玲も知っているからだ。どんな感じなんだろう、と思ったことはある。気持ちいいわけじゃないと、友人は言っていたが。
「ふゥ、……ぁふ」
 だとしたら、この感覚はなんなのだろう。
 玲の手が触れたところから、じんわりと熱くなっていく。体温が伝播して、それと一緒に何か別のものまで伝わってくるようだった。ふにゅ、ふにゅと玲の指が柔肉に沈み込むたびに、それは強く、広く、一美の内側に染み入っていく。
「あ……ッ」
 指先がブラジャーの下にもぐりこみ、肌と肌が直接触れ合う。その瞬間、一美を焙る熱量が一気にあがった。感触を確かめるような指先の動きが、快感を高めるための撫でさする動きへと変化する。乳丘全体をマッサージするような優しくも淫らな愛撫。掌から伝わる熱が大きすぎる乳を通り、背骨に達して神経を震わせる。
「ぁうッ……んんっ」
 我慢しようとしても声が漏れてしまう。淫らに蠢く玲の両手は、ゆっくりと沈み込んだかと思うと強く揉みしだき、優しく撫でまわしては激しくゆすり、緩急をつけて一美を責め立てる。くすぶる淫熱が乳房の奥で高まっていく。一秒ごとに加熱するそれは、柔乳の頂点で震えるピンク色の突起に収束していく。
「う、ふぁっ、ぁあぅ……ッ」
 声も我慢できなければ、動きも我慢できない。自分でもはしたないと思うほど身悶えて、一美は喘ぎまじりの荒い吐息をこぼした。身をよじり、腰をうかせ、まるで誘うように背をそらせて胸を突き出す。その間も、親友の五指は一美の悶絶を愉しむように蠢きまわっている。気が付けば一美は涙さえ浮かべて、指の一押しで全身が震えるほどに高められてしまった。
「はっ、はぁぅ、ううっ」
 すでにブラジャーは完全にずりあがり、一美のコンプレックスだった巨乳は淫猥に熱された空気の中に晒されている。白いシーツをしわくちゃにして半裸のまま見悶える一美も、彼女に覆いかぶさって愛撫をつづける玲も、全身に汗を浮かべていた。
 ずっと触れていた手が、そこで離れた。体温が遠くなり、汗だくになった淫乳を冷気が撫でていく。「ぁ……」とものほしそうな声がこぼれて、一美は思わず赤面した。
 玲の手が離れて、はじめて乳房の頂点が見えた。さんざんに高められたそこは、既に屹立している。自分の興奮をつまびらかにされているようで、一美はまた真っ赤になって顔をそらして――

 ――くちゅっ

 ――耳に刺さる水音に、思わず玲を見た。一美の上に馬乗りになった玲は既にとろけ顔だった。汗で額に張りついた黒髪を指でどかして、淫蕩に笑う。
 寝そべった一美には、膝立ちになった彼女の全身が見えた。上からいくつかのボタンが外れて、白い肌が垣間見える制服も、膝立ちになった太ももの中途半端な位置に絡まる白い下着も、下から二番目と三番目のボタンだけを外して、彼女自身の下腹部にもぐりこむ玲の右手も、全てだ。
「あ……えっ……」
 一美の想像を裏付けるように、玲の右手が動くたびにくちゅくちゅといやらしい音が漏れた。さっきまで一美の胸を優しく、激しく愛撫していた右手が、今は玲の恥ずかしい部分を漁っている。熱のこもった吐息をこぼしながら、玲は淫らな笑みを崩さないまま自慰にふけっている。
「ず、ずる……ずるい……っ」
 ――ずるい。
 言ってしまってから、一美はあわてて口を閉ざした。しかしもう遅い。ずるい。自分ばっかり気持ちよくなってずるい――一美はそう言ったのだ。
 もっとしてくれと、ねだってしまった。
「ンふ」
 ひときわ深い笑みを浮かべて、玲はゆっくりと一美に向かって倒れこんだ。二人のカラダが重なる。右手は自分の秘部に触れたまま、左手がするりと一美の乳房を包み込む。
「あ……」
 この先に期待にして一美がかすかに笑みを浮かべるのと、

 きちゅっ!

 玲の左手が尖った乳首をひねりあげるのが同時だった。
「ひぁあっ!?」
 これまでのどの瞬間よりも強い刺激だった。昂りきって焦らされていた桃突起から走り抜けた快感は乳腺を通って淫らに熱された乳房を蹂躙し、そのまま背骨を駆けのぼって脳髄を直撃した。一瞬、視界が飛んだ気すらする。
 一美は理解できなかったが、この瞬間、彼女は間違いなく絶頂していた。
「な、なに……ふぁぁあっ」
 達したことすらわからないまま、今度は逆側の乳首から刺激が走った。ぬらりとした感触が乳輪全体にまとわりつき、硬いもので震える桃芽が挟まれている。歯だ。見れば、玲の頭が左の乳房にむしゃぶりついていた。
「やっ、あっ、あうっ……」
 ちろちろと舐めまわし、吸いつき、甘噛みされる。掌とは違った多彩な刺激に最初こそ戸惑ったものの、一美はあっという間にその快楽に呑み込まれた。指先で転がされ、こねられ、つままれ、舌先でついばまれ、舐められ、前歯でこすられ、噛まれる。そのたびに背が跳ねるほどの悦感が一美の全身を疾走する。
「やぁあ、あ、ぁあっ、ぁあうう……」
 くちゅくちゅと玲の股間から響く水音はその激しさを増していき、耳元からやさしく一美の脳をとろかしていく。悶えているのは一美だけではなく、玲もそうだった。ふたりのカラダは保健室のベッドの上で重なりあい、互いをこすりつけるように喘いでいた。
「あっ、あっ、あぁあっ、ふぁああ――」
 早鐘をうつ心臓に合わせるように送られる刺激が強くなる。持ち上げられる。のぼっていく。どこまでも、どこまでも、帰ってこられなくなるくらい高くに。
 両の胸はもはや快楽に満たされて、そのカタチすら曖昧になっていた。玲の指と舌が乳首や乳房と溶け合って、混ざりあって、ぐちゃぐちゃに蠢いている。上半身まるごと媚薬の壺に漬け込んだみたいに敏感で、皺の寄ったシーツに触れるだけで絶頂感が襲ってくる。こんなのはおかしいと思っていても、一美にはまともな思考回路は残されていない。
「あぁあ、あっ、ああっ、ふぁ、ンぅ、ぅうううッ!」
 べとり、と。
 不意を打つように、臍の下あたりにぬめついた指先が置かれた。ただでさえ麻痺していた思考が停止する。気がつけば、あれほど耳に優しく響いていた淫音が止まっていた。
 ということはつまり、玲の右手が空いているということで、
「待っ、」
 乳房に顔をうずめていた玲が、上目づかいにニヤリと笑った。

 ――ぷちゅっ

 下着の中に滑り込んだ玲の指先は、的確にその一点を抉った。これまでただの一度も触れられず、ひたすらに淫悦の火の粉だけを浴び続けてすっかり火照っていた、一美の最奥を。
「ふぁあっ!」
 ほとんどの誰の手も触れたことのないそこは、どろどろに湿っていた。他人の指先がもぐりこんではじめてそれを自覚する。濡れるなんてものじゃない。溢れているでもまだ足りない。一美の秘部は愛液に浸かってふやけている。
 ぐちゅっ、にちっ、ぢゅぷっ――
 そこを、容赦なく親友の指が貪りはじめる。美肉をついばみながら、快感のスポットを探るように指先が踊る。こらえようとしてもかなわず、リズミカルに響く喘ぎ声の中、ほどなく玲の指がソレを探りあてた。
「んぁっ、ああっ!?」
 これまでとは違う、ひときわ強い感覚に身をかたくする。その警戒に応じるように、玲の指先はそのエリアを優しく撫でさする。安心させるように、少しずつほぐしていく。
「ん、ふぁ……ぁ、ああ……っ」
 その心遣いが響くように、一美の声もすぐに甘く色づいた。ろくにオナニーの経験すらない瞳にとって、他人の体温がカラダの内側にあるなんてはじめてのことだ。それなのに、生ぬるいその違和感すら忘れてしまう。いや、違和感をこそ欲しいと思う。玲の愛撫するその領域は、それほどに敏感で、貪欲だった。
「ん、んん、んぁあっ、ぁ、ふぁあっ……」
 指先の動きが少しずつ早くなる。ぷちゅぴちゅと蜜のはじける音が響いている。心臓が波打って、全身が粟立つ。勝手に腰が持ち上がり、もっと欲しいとねだるように動きはじめる。昂っていく。カラダ全部が熱い。尿意にも似た感覚がわきあがり、下腹部を淫らな焦燥感で埋め尽くす。呼吸が難しい。世界が遠い。どこまでも、どこまで、再現なく浮き上がっていく。
 指辱をつづけなら、玲がそっと顔を近づけてきた。キスだろうかと淡く期待した一美を裏切るように、唇が耳元に触れる。ゼロ距離で、淫猥な吐息がかすかにささやいた。
「――イッていいよ」
 次の瞬間、玲の指先がひときわ強くその場所を突き上げた。
「あっ、あぁあっ、んぁああぁあああああ――ッ!!」
 血液が逆流する音を聞いた。全身の毛穴が開いて産毛が総毛立つ。快楽の芯から迸った淫感は瞬く間に一美のナカを駆け巡り、子宮を締め上げて全細胞を震わせた。 保健室どころではない、フロア全てに響き渡ったのではないかとすら思える嬌声をあげて、一美はエビぞりになって達した。
「あっ、あ、あぁ、あぁあー……」
 ビクビクと痙攣じみた震えを繰り返して、ゆっくりと脱力する。一美の絶頂を見届けた玲は体を寄せたまま「うふ」とほほ笑んだ。
「あ、ぁあ……」
 一美の世界は白濁していた。白いもやがかかった視界の中を、時折ビカビカと得体の知れない光が飛び回っている。刺激はなく、ただ寄り添う親友の体温だけを感じるやわらかな倦怠感の中で、一美は静かに目を閉じた。
 体の中心にあった焦燥や熱が、一気に解き放たれた。弛緩した全身にはなかなか力が入りそうにない。ただ、子宮のあたりにかすかにくすぶる残り火が、静かに一美を苛んでいた。
 出してくれ、と言っているように思えた。
「ん……」
 そうだ、もう出してしまおう。脱力したままぼんやりとそう考えると、下腹部から快楽の残滓がこぼれだした。

 ちょろちょろちょろ……

「ふえっ?」
 あわてて目をあける。見えるのは胸の谷間に顔をうずめる玲だけだ。だが、股の間からじわりと広がる温かい感覚は間違えようもない。
「おっ、おしっ……」
「あはは」
 おしっこ、と言えずにどもる一美に、玲が屈託なく笑った。あまりのことにまた赤面して、一美はぎゅっと目をつむってしまった。
 ――どうしてこんなことになったんだろう。
 じわりと広がるぬるま湯のような温度とツンと香りだしたアンモニア臭の中で、一美はかすかにそう考えた。こんなつもりじゃなかった。玲とは友人だったけれど、それも親友だったけれど、一美にとっての親友とは裸で抱き合ったりいじりあったり、挙句絶頂しておもらしを晒すような関係ではない。
 ――ムックはいま、
 何を考えているんだろう、と一美は思った。あまりにも突然で、意外だった。彼女がどうしてこんなことをしたのか、一美には未だにわからない。わかるはずもない。
 そんなこと、椋鳥玲にだってわからないのだから。

つづく