僕が一宮日夜子と出会ったのは、中学校二年生の時だ。卒業式だった。
 出会ったというのは正確ではないか。僕が一方的に彼女を知ったのが、というべきだ。
 中学校の卒業式――三年生の先輩方を送り出す正門前で、一宮は真っ赤な顔で第二ボタンをもらえないかと頼んでいた。地味なふたつしばりで面白味のない眼鏡をかけた、スカート丈の長すぎる女子。それが一宮だ。相手は当時人気のあったバスケ部の先輩で、お前それは無理だろうと誰もが思っただろう。
 事実無理だった。
 先輩は笑いながら(笑いながらだ)、彼女がいるからと断った。一宮は泣きそうな顔で、それでも笑顔で、めいわくかけてごめんなさいと言ったのだ。
 かわいいと思った。かわいそうだと思った。
 それが僕と一宮日夜子の出会いで、僕の、たぶん一目惚れの瞬間だった。

**

 目が覚めた。
 薄暗い室内に、カーテンの隙間からやわらかな陽射しが差し込んでいる。目を細めて光の束を眺めながら、僕は二度ほど瞬きした。起き上がる――まだ寝ぼけているのか、妙にからだが重い。いや、軽いのか? 不思議な感じだ。布団に手をついて体重をかけると、ずぶりと掌が沈んだ。なんだ、妙に布団がやわらかい。
「……?」
 敷布団だけではなく、掛布団もふわふわしていて全然重くない。そのくせやたらとあたたかい。どうしたんだろう。昨日干したんだっけ?
「あれ?」
 視線が高い。寝起きの目線じゃない。というか、部屋に見覚えがない。朝方の薄暗がりではあるが、自分の部屋じゃないことくらいはわかる。畳じゃないし、本棚がでかいし、僕の部屋にはウォークインクローゼットなんて存在しない。
「なんだ……えっ? あれ?」
 ノドを手で抑える。声。声までおかしい。やけに高くて、しかも全然声量が出ない。かすれて、縮こまったような声だ。寝起きだからだろうか。確かにノドは乾いている。
「えっ、なんだ? なんだこれ?」
 いや、そういう問題じゃない。そういう次元の話じゃない。僕はベッドから降りて、絨毯の敷かれたフローリングに立った。足が小さい。猫のキャラクターが描かれたパジャマを着ている。よくよく見れば手も小さい。スケールが全体的に縮小されている。子供にでもなったのか? じゃあこの部屋は?
 きょろきょろと見覚えのない部屋を見渡すと姿見があった。少し恐ろしい気もしたが、意を決して鏡の前に立つ。そこには。
「……はっ?」
 そう、そこには、一宮日夜子がいた。
 きょとんと眼を見開いて、首をかしげてこちらを見ていた。
「な……っんだこれ!?」
 思わずあとずさると、鏡の中の一宮も怯えるように距離をとった。右手で頬を触る。一宮が左手を顔にあてた。ああこれ、間違いない。
「僕、一宮になっちゃった……」
 ぽかんと口を開けて、僕はそう言った。一宮の声は耳にやさしく、ふわふわとした気持ちになる。言うまでもないが、そんな場合ではなかった。

**

 一宮の両親は共働きらしい。朝食の席で体調不良と欠席を伝えると、特に疑う様子もなく首肯してくれた。普段の行いが良いとこういうところで得をする。僕とは大違いだ。
 僕のカラダはどうなっているのだろう。最初は僕が一宮に変身してしまったのだと思ったが、それだと一宮の部屋で目覚めた理由がわからない。なんだろう、魂だけが入り込んでしまったとか、そういうことなんだと思う。似たような映画があったよな。入れ替わり?
 悪いと思いながらスマートフォンを覗いてみたが、パスコードがわからない。指紋認証はついていないタイプの筐体だった。手づまりだ。
 僕は無人になった一宮家を探しまわり、結果途方に暮れてベッドに腰かけた。どうしようもない。直接僕のカラダを訪ねるという選択肢はまだあったが、一宮のカラダで勝手をすることに躊躇があった。
 一宮の部屋は片付いていた。大きな本棚には少女漫画と薄っぺらい小説、それに美術名鑑とかいう分厚い本がおさまっている。机も整理されていて、参考書と辞書がキッチリと並んでいた。机上にはスケッチブックが置かれている。
 一宮は美術部だ。そのくせ絵は大してうまくなくて、成績もふるわず、運動もできなかった。何ならできるんだと言たくなるくらい全てがどんくさい。中三で同じクラスになった時、一宮と同じ美化委員に立候補して接点を持った。ろくに会話もできなかったが、それでも仲良くなれたと思う。偶然同じ高校の同じクラス進学した僕は、、毎朝笑顔で声を交わせる程度の関係にはなっていた。
「……一宮、どうしてるのかな」
 僕のカラダになっているのだろうか。だとしたら戸惑っているだろう。一宮のことだ、どうともできずに泣いているかもしれない。僕のスマートフォンは指紋認証式だが、彼女がそんなことに気が付けるとは思えない。両親も助けにはならない。最悪、起きた時にはもう仕事に行っている可能性すらある。母さん、今日は早番だっただろうか。
「……助けられるのは、僕だけだ」
 一宮日夜子が好きだ。ここでこうしていても何も進まない。僕が彼女を、助けなければ。
 意を決して、僕は立ち上がった。僕の家に行こう。一宮が僕と入れ替わっているにせよ、違うにせよ、何かはわかるはずだ。
「えっと」
 とはいえパジャマで行くわけにはいかない。着替えないと。……着替えないと。
「髪もぼさぼさだし、シャワー浴びる……べきかな?」
 いや、それはまずい。いやうん、まずいけど、でも、しょうがなくないか? こんな格好で外に出るよりマシだよな? その、なんだ。どうせバレたりはしないだろうし。
 だって一宮が好きなんだ。そういう気持ちになるのも、自然じゃん?
「いや、でも、シャワーは、やめとこ」
 一線は引こう、一線は。ともかくクローゼットから適当な服を引っ張り出して、僕は着替えるべくパジャマの上着を脱いだ。
 白状しよう。
 一宮は幼児体型だ。そして僕は、実は巨乳が好きだ。だからほとんど気にしていなかった。パジャマの上着を脱いだら上半身は裸だっていうあたり前のことも、わかってはいたけれど、どうということはないと思っていた。失礼な話だとは思うけど。
 現れた肌は白かった。なだらかな曲線が鎖骨の下からつながって、かすかな、本当にかすかなふくらみの頂点で桜色の突起が遠慮がちにたたずんでいる。はあっ、と吐息を漏らすと、ふわりと胸元に風を感じた。
 これ、今、僕のカラダなんだ。
「……お、おお」
 想像よりずっと衝撃的だった。このご時世だ、スマホひとつあればエロいものなんて見放題。おっぱいもそれ以上のものも、いくらでも無修正で保存できる。けれど、液晶越しの誰かの巨乳より、一宮日夜子の、本物の小さな胸の方が遥かに魅力的だった。
 ごくりとノドが鳴る。ぞわぞわと不思議な感覚が胸元から湧き上がってくる。鼓動がうるさい。鎮めなきゃと思って、僕は掌で心臓を抑えた。

 ふにっ

「ふわっ!?」
 やわかっ……! こんなに小さいのに、一宮の胸は異様なくらいやわらかかった。こんなにやわらかい部位が人間に存在するのかってくらいやわい。力をこめたら元に戻らないんじゃないかと心配になる。もう一度、やさしく掌をあてる。ほんの少し指先に力を入れると、くにゅ、と柔丘に指が沈み込む。小さいから埋まるというほどではないが、十分以上の感触だ。これが本物のおっぱい……!
「お、おおお……」
 貧乳には芯やしこりがあるなんて話も聞いたことがあるけれど、実際にはただやわらかいばかりだ。指をうごめかすと、ふにゃふにゃと形を変える。今まで触れてきたどんなものよりも柔和で心地いい感触だった。
 視線を鏡に向ける。ふらふらと全身鏡の前に立つと、上半身裸で胸を揉む一宮がいた。あの一宮が。引っ込み思案でおとなしく、何をやってもダメな一宮が、自分のおっぱいを自分で揉んでいる。訳が分からないくらいエロい。
 じわり、と何かが股間に忍びよる。いや、まずい。まずいだろ、これ。すぐに着替えよう。だめだ、これ、だめになる。僕はあわててズボンを脱いだ。あわてすぎた。なぜって、僕はまだ姿見の前にいたのだ。
 鏡の中で、一宮がパンツ一枚になった。
 顔を真っ赤にして、とろんとした目をして、ピンク色のパンツをさらけだした一宮が呆然と僕を見ていた。小さなリボンとおまけ程度のフリルがついたパンツだ。また、ゴクリとノドが鳴った。
「う、お……」
 股間がじくじくと疼いている。僕自身のカラダだったら、きっともう痛いくらい勃起していただろう。思わず股間に手をやって、何もないことに気がつく。ない。ないんだよ。これ、どうすりゃいいんだ。
 左手で胸を触る。やわらかいし、心地いい。けれどそれだけでは、カラダの奥で疼くこの感覚をおさめられない。これ、このままで外に出ろっていうのか。無理だ、おかしくなっちまう。
 ないものを探して股間を叩く。隠れてないか? あるわけない。あるわけ……
「んっ……?」
 指先でソレがあるはずの場所を叩くと、ぞわりと疼きが大きくなった。呼気を漏らしてそこを見る。ピンク色の下着。ワンポイントのリボンとフリル。その下の、
「……は、ぁん……」
 触れると、ふにゃりとした感覚。おっぱいほどやわらかくはないが、独特の触感だ。布地ごしにクニクニと何度か押し戻しすると、そのたびに疼きが大きくなる。
 腰あたりからおなかの下にかけてたまったそれは、気がつけば僕にはどうにもできないほどの規模に育っていた。胸をいじる手も、股間を触る手も止まらない。姿見の角度を調節して、僕はベッドに腰かけた。
 よく見える。
 大股を開いてクロッチをさらけ出し、だらしない笑顔で指を這わせる一宮日夜子がそこにいた。
「あ、ふ、ふぁ、ふぁあ……」
 声もエロい。かすれて小さな声しか出なかったはずなのに、喘ぎ声だけは高く大きく響くような気がした。それがまた僕の気分を高める。気持ちいい。気持ちよすぎる。
 こんなの、無理だ。
 左手が乳首をつねる。疼きが激しく震える。快感が、胸元から心臓をわしづかみにする。鼓動がひとつ打つたびに、思考がピンク色に染まっていく。
 するり、と。
 ほとんど無意識のうちに、僕の右手が下着の中にすべりこんだ。
 そこはあたたかく、かすかに湿っているように思えた。やわらかな土手を掌で覆い、スリットに指を這わせる。
「は……あっ、あァッ!」

 じゅわっ――
 
 たぶん気のせいだ。けれど、そんな音を聞いた気がした。カラダの奥の奥、女の子の中心から、いやらしい蜜があふれだす音だ。おなかの中の疼きはココと直結しているようで、軽く撫でるだけでゾワゾワと腰から背中にかけて得体の知れないものが這い上がっていく。自分でちんこをこする途中の、なんとも言えないもどかしさ、あれが全身に広がっていくような感じ。
「ふぅ、んっ、んん……っ」
 声を抑えようとするけれど、勝手にノドから音が出ていく。鏡の向こう、手の形に盛り上がったパンツの中で、ぐちゃぐちゃと指が蠢く様子が見える。はっきりと全部が映るより、ずっと卑猥に感じる。
「ふぁっ、あぁん、ん、んぅ……うぁっ」
 くちゅくちゅと、これは幻聴ではなく、本当にいやらしい音が響きはじめた。気持ちいい。僕だけでなく、一宮のカラダも感じているのだ。悦んでいるのだ。
「一宮、いちみや……ぁっ、あぁっ、んぁああッ!」
 指が止まらない。探りあてたソコに中指が入り込む。小さな小さな入り口。一宮の奥への扉。グジュッとひときわ大きな水音が鳴った。そこはもうぐしょ濡れだった。大量に水を吸ったスポンジに指をつっこんでるみたいだ。
「はっ、あぁあっ、んぁっ、ぁあああっ!」
 きっとまだ誰も、一宮自身すら触れたことがないだろう秘路を、僕の指が往復する。中指と人差し指。ぐじゅぐじゅと音を立てながら挿抜を繰り返し、壁をこすり、ひっかき、たまに指を曲げてみたりする。そのたびに抑えようもない声が肺の中から飛び出していく。小さくてかすれた声なんて大嘘だ。
「ぁあああっ、いちみや、いちみやぁっ、きもちいい、きもち……」
 こんないやらしい言葉を、一宮が。あの一宮が。僕の目の前で股間を貪る一宮は、ぼろぼろと涙をこぼして、涎までこぼして、そのくせ笑顔で喘いでいる。きもちいい、と何度も繰り返しながら、邪魔な下着をふとももまで引きずり下ろした。
「あっ、ああ、あっ」
 あらわれたソコは、どうしようもないほど濡れて、ぬらぬらと光っていた。ローションまみれのイメージビデオよりいやらしい。ひくひくと誘うように痙攣する肉襞の奥で、呑み込まれた二本の指が踊っている。そのわずかに上。
「あ……」
 それは既に充血して、自ら皮を脱いでいた。涙と涎と、愛液をこぼす一宮が、ふにゃりと笑顔を深くする。どうすればいいのか、どうするべきなのか、僕は、彼女は、気づいたのだ。
 右手はそのままに、左手を胸から離す。震える手が、そっとそこに触れた。
「ん、は、ぁ、ぁあ……」

 ――ーきゅっ!

「……んんんぁああっ!」
 おなかの奥で渦巻いていた疼きが、一気に膨れ上がった。子宮から弾けて全身に飛び散り、血管をめぐって神経を走破する。細胞ひとつひとつが痺れている。最初から遺伝子に刻まれた命令みたいに、一宮はカラダ全部で嬌声をあげた。
「あぁああっ、あっ、あっあっ、あぁあ、ふぁああっ!」
 右手は抽送を止めないまま、左手の指先が秘芯をこすりあげる。触れるだけで全身が震え、こすりあげれば痺れ、繰り返せばもう未知の感覚だ。右手を乗り越えてあふれる愛液がベッドを濡らしていく。視界がぼやける。鏡の中は見えないけれど、今一宮がどんな格好で何をしているのかは脳裏にはっきりと描き出せた。
「ふぁっ、あぁあっ、んっ、んひゃうっ、あ、ぁっ、ぁあああっ、ぁああああっ!」
 駆けあがる。跳ねあがる。階段を一足飛びにのぼっていく。足元から津波が押し寄せて、全身の感覚を攫っていく。呼吸をするだけで肺が感じる。声を出せばノドが悦ぶ。だめだ、だめだ、もうだめ、だめ、だめ、
「あっ、あっ、ぁあっ、ぁっ――」
 その瞬間。
 ぐちゅり、と強く、左手が秘芽をつみあげた。

「んあぁあああぁああぁあああああ――――ッ!!」

 全身を鳥肌が覆って、産毛まで逆立ちして、脳天を一気に大津波が走り抜けた。爆発した疼きは神経全部を震わせて、頭の中をからっぽにする。白い――全部白い。まっしろだ。
「ぁ、あ……ぁあ……」
 ぐったりと力を抜いて、僕はベッドに倒れ込んだ。視界の端にかすめた鏡の中で、さんざんに嬲られた秘所の奥から、ぴしゃぴしゃと透明な液体が噴き出すのが見えた気がした。
 そうして僕は、そのまま気を失った。

**

 目が覚めた。
 全身汗だくで、息が荒い。あわてて起き上がる。畳の上にせんべい布団、ちっとも温まらないくせにやけに重たい羽毛布団。漫画しか入っていない本棚に、そのまま置かれているゴミ袋。ノドが乾く。体が重い。目眩までする。まるで一日中飲まず食わずでいたかのようだ。
「はっ……はぁ、はぁ」
 あわてて股間を確認する。勃ってない。射精もしていない。
「夢……?」
 だとしたら、なんて最低の夢だ。
 枕元に手をやるとスマートフォンがあった。触られた形跡はない。指紋認証をクリアする。時間は――午後四時。
 昨日の夜から今まで、ずっと寝てたのか? それであんなわけのわからない夢を見たのだろうか。ひでえ、なんてありさまだ。
「……まあ、でも」
 実際に一宮にひどいことをしていなくて、よかったのかもしれない。
 着信は相当の量が来ていたが、まあもうしょうがない。学校はとうに終わっている。一宮からは何の連絡もないことを確認して僕はとりあえず水を飲むために台所へ向かった。

**

 翌朝、教室はいつも通りだった。特別なことはない。僕の異常な夢はやはりただの夢だったのだ。困ったもんだ。オナニーを増やすべきか?
 そうこうしていると一宮が教室に入ったきた。いつも通り俯いて、いつも通りおどおどしている。僕は一宮に向けて、つとめて自然に「おはよう」と声をかけた。
 こちらを向いた一宮は、
「……ッ!」
 目を剥いて、あからさまに距離を取った。
「え……」
 何もしていない。何もしていないはずだ。それなのに一宮は泣きそうな顔で、僕のことを睨んでいる。まるでひどいことをされた相手を憎むような目だ。
「いちみや……?」
 いや、だって。夢だ。夢だっただろ? 実際には、何もしていないはずだろ?
 立ち上がる。手を伸ばす。一宮は、
「さわらないで!!」
 聞いたことのないような大声で、僕を拒絶した。
 クラス中の視線が集まる。一宮は泣いていた。自分の胸元を抑えて、息を荒くして僕を呪うように見つめている。夢の中で喘ぐ一宮を思い出した。
 お前だって、あんなに気持ちよがってたじゃないか。
「みてた」
 一宮は、
「わたし、ぜんぶ、みてた。みてたんだよ」
 そう言った。
 そして、それだけだった。逃げるように――いや、実際に僕の前から逃げ出した。席についた一宮を女子が取り囲む。同時に、違う女子が僕に向かってきた。一宮さんに何したの。何って。何ってさ。
 そんなの僕だってわからない。だってあれは夢だろ? そうじゃなくても、一宮は僕になってたんじゃないのかよ。入れ替わってたんじゃ。
 全部見てたなんて。
 そんなの、だって、知らなかった。知らなかったんだ。

**

 その後、一宮とは一言も話していない。僕は一宮に拒絶された。本当に好きだったのに、大切にするつもりだったのに。
 そして、僕は――

**

 ――僕は、目を覚ました。
 高い視点。かわいいカーテン。大きな本棚。スケッチブック。起き上がる。猫のパジャマだ。手の中にあったスマートフォンは電源が入ったままだった。どうやら寝入りばなだったらしい。スマホをいじりながら寝てしまったのだ。
 僕はすばやく設定画面を呼び出して、自動スリープをオフにした。これで自分でスリープにしない限り、今回はスマホを自由に使える。
 この時を待ってた。
 どうして起こったのかもわからない現象だった。もう一度起こるとは限らない。けれど信じて待った。だってそうだろう? 僕だけが悪いんじゃない。あんなの事故だ。誰だってああしたはずだ。それを全ての原因が僕みたいに。そんなひどい話はないじゃないか。
 そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。
「見てるか、日夜子。ふざけやがって、なにやってもうまくいかないトロくさい貧乳の分際で」
 僕はパジャマを脱いだ。ああそうだ。そんな僕を悪者にしたいなら、本当に悪者になってやる。二度と僕に逆らえなくしてやる。
「復讐してやるよ」
 僕は笑った。彼女に今も意識があるのかはわからない。だがもうどっちでもいい。姿見の前の日夜子はやぼったく、色っぽく、凶悪な顔をしていた。
 さあ、貶めよう。

youthful possession/black――end.