途中で止まったままかなりの(何年もの)期間があいてしまい、続き書く気が全くなくなってしまった没小説から、それなりにまとまってるものを供養しようシリーズ。

いつもの憑依もの。いつものというが、かなり初期に書いたやつ。

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SWITCH(仮題)

 高崎優花はいつも、携帯電話のアラームで目を覚ます。一度では起きられないのでスヌーズを設定して、鳴り出してからたっぷり三十分はためらってやっと布団から抜け出すことに成功する。それが優花の、いつもの朝だ。
 これは家族に大変不評で、だいたいいつもスヌーズの途中で一度声をかけられる。中学にあがった時部屋に鍵を取り付けたから、無理矢理起こされることこそないが、扉の向こうからかけられる家族の声が優花にはうっとうしくて仕方がない。
 だが、この日はそんないやな思いをせずにすんだ。
「……ほや?」
 ぼんやり目を開けて、手癖で枕元を探る。手にした黒い折りたたみ式の携帯電話は震えていない。鳴ってもいない。開くと、最近お気に入りのアイドルがさわやかな笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
 時計の表示は、六時二十五分。
「ろくじ……」
 もにょもにょとつぶやく。まぶたをこすって、優花はふわあ、と大きなあくびを漏らした。
「ろくじって、何時だっけ……」
 体を起こす。目覚ましが鳴っていないということは、ちょうどスヌーズの間か、もしくはそれすら終わっていて致命的な時間になっているかのどちらかだ。どちらにせよ焦る必要はないので、優花はのろのろとベッドから降りた。
「んぁあ……」
 ぐにに、と両手をあげて伸びをする。ネコとウサギの図柄がちりばめられたパジャマは去年の誕生日に買ってもらったもので、優花のお気に入りだ。おなかのあたりで喧嘩をしている二匹を見てほほえむと、優花はカーテンを一気に引き開けた。
「ん……」
 差し込む明かりはまぶしく、今日が晴天だと教えてくれた。
「えっと……それで、何時だっけ」
 もう一度携帯電話を手に取る。確か六時だった気がするが、そんなことはありえないので、八時あたりの間違いだろう。遅刻してしまった。とても残念だ。
 最近お気に入りのアイドルがさわやかな笑顔で今の時間を教えてくれる。六時三十一分。
「……」
 六時三十一分。
「え……」
 こくん、と首をかしげる。それから窓の外を見て、もう一度、反対側に首を倒す。六十秒、画面の数字がひとつ増えるまでじっくり考えて、
「やば……時計こわれてる」
 しぶい顔をして優花はつぶやいた。

■SWITCH■

□1
「……」
「……」
「……」
「……おはよ」
「……うわああしゃべった!」
 階段を降りた先で出くわした妹は、そう叫ぶと三歩分の距離を飛び退いた。朝っぱらからなんだと、優花は憤慨して顔をしかめた。
「なに、しつれいだなあ。ていうか、なんでこんな時間にいるの」
「こっちの台詞! 優花ちゃん、今何時だと思ってるのよ?」
「えー? 携帯の時計こわれててわかんないんだよう。八時とかじゃないの?」
「とかじゃないわよ! えー!? 信じられない、あの優花ちゃんが七時前に起きてきた!」
「なにそんな、人がいつも寝坊してるみたいな」
「してるじゃない」
「寝坊ってのはね、遅刻してはじめて寝坊なの。間に合えばそれはギリギリまで寝てたってだけ。セーフなの」
「優花ちゃん、中学生にもなってその考えはどうかと思うよ?」
「うるさいなあ……」
 優花は唇をとがらせて階段を降りきると、まだ驚きの抜けきらない妹の頭をこづいた。それから、
「ん? え、七時前? まだ七時前なの?」
「だから、そう言ってるじゃない」
「うそだあ、あたしがそんな時間に起きるわけないじゃん」
「全く同感だし自覚があるのはいいことだけど、その発言には色々問題があるよ。そっちも自覚してほしいよ」
「桂花ちゃんは無理ばかり言う」
「うん……三十分早く起きるだけでいいんだけどね……」
「それができれば誰も困らないんだよ」
「確かに、そうしてくれるだけでみんな困らないんだけどね……」
 妹のため息を背に、優花は洗面所に入るとささっと顔を洗う。手早い洗顔は優花の癖のようなものだ。毎朝時間がないのだから仕方がない。
 鏡に映った大きな瞳はいつもどおりの寝ぼけ眼。染めているわけでもないのに明るい髪もいつも通り。癖のつきにくい髪質らしい優花は、朝髪を整える時間が短くて済むので助かっている。
「んー」
 さっぱりした頭で時間を確認する。お風呂場の耐水時計を見てもやはり七時前で、どうやら携帯電話は正しかったらしい。では何が間違っているのかというと、
「あたしか」
 まさか本当に七時前に起きてしまうとは。今日は何かとんでもないことが起こる予感がした。
「桂花ちゃんごめん、七時前だった」
「うん」
 リビングに入ると、食パンを頬張った妹が微妙な表情でうなずいた。隣に座って吐息をもらすと、
「あらぁ、本当に起きてきたのねえ」
 やや間延びした声が台所から飛んできた。妹が食べているのと同じ食パンがお皿に乗って運ばれてくる。エプロンをつけて現れた母親は、今日もほんわかした笑顔を浮かべている。
「おはようお母さん」
「おはよう優花ちゃん。はい朝ご飯。今日はゆっくり食べられるわね」
「ね。びっくりしたよ」
「だから、こっちの台詞よ。なに、昨日は早く寝たの?」
「うーん」
 言われて考えてみるが、何か特別なことをした覚えはない。いつも通り……本当にいつも通りだ。朝すぐに出られるように鞄の支度だけして、あとはベッドでごろごろしていた。
「わかんない」
「ふーん。いつもこうならいいのに」
「そりゃ無理だ」
「あきらめないで努力したらどうなのよ」
「桂花ちゃんがあたしに死ねっていう!」
「どんだけ弱い生き物なの……」
 優花と桂花は年の近い姉妹だ。ひとつ違いで、来年には桂花も中学にあがり、また同じ学校に通うことになる。優花よりほんの少し背が高く、ほんの少し胸が大きく、ほんの少し大人びていて、ほんの少ししっかりしている桂花はよく「お姉さんですか?」と優花の友達に聞かれている。最近では優花も否定するのが面倒くさくなってきているくらいで、全くよくできた妹だった。
「優花ちゃん、今日は一緒にでれるわよね」
「そだね」
 食後のコーヒーを飲んでそう言う桂花にほほえみ返す。なんだかんだと、早起きはいいものだ。
「たまには早起きもいいね」
 素直に思ったことを言うと、
「三文の得っていうものね。時間に余裕があるっていうだけじゃなくて、いいものだと思うよ」
「うんうん。……ところで桂花ちゃん」
「うん?」
「サンモンってなに?」
「……」
 ともあれ、今朝の高崎家は格別平和だった。

**

 セーラー服を着て「行ってきます」を言っても、時間はまだ七時半にもなっていない。先ほど目覚ましのアラームを止めたところだ。余裕すぎて教室で暇を持て余しそうだなと、優花はぼんやり考えた。
「いい天気だね」
「うん」
 小学校と中学校は敷地が隣接しているので、向かう先は同じだ。二人は肩を並べて通学路をのんびりと歩いた。普段は駆け抜ける道をゆっくりと歩くだけで、まるで違う町のようだった。
 優花の背は高くない。さほど低いとも思っていないが、平均を下回るらしい。セーラーカラーをかすめる髪が少しだけ明るいのは、小学生のあいだ習っていた水泳のせいだそうだ。
 ちらりと桂花を見る。二人の身長差はさほどないので、見上げるというところまではいかない。優花とは違って丁寧に梳いた長い髪を、今日は三つ編みにしている。彼女は髪型を変えるのが趣味なのだ。おさえた色合いのワンピースなんか着て、小学生にはとても見えない。
 赤いランドセルが絶望的に似合わない桂花は、ショルダーバッグを使っている。肩から提げたそれは二年前に優花がお小遣いをはたいて買った誕生日プレゼントだ。
「ねえ優花ちゃん。やっぱり、早起きしようよ。こんなふうに、毎朝一緒に歩きたいよ」
「う……」
 素直な言葉で言われてしまった。優花は苦笑しつつ「努力します」とだけつぶやいた。
「あてにならないなあ……」
「朝眠いよ。眠いでしょ?」
「夜更かしするからだよ。もっと早く寝ればいいのに。なにやってるの?」
「……うーん……」
「思い出せないようなことして寝坊するくらいなら、早く寝て早く起きなさい」
「うーん……」
 思い出せないわけではないのだが、口にしたら余計怒られそうだ。要するに遊んでいるのである。
 学校まではのんびり歩いても十分もかからない。ほどなく分かれ道に到着した二人は、手を振り合ってそれぞれの正門をくぐった。友達と合流する妹の背中を見送って、優花は自分の校舎へと歩き出した。
 時刻は、七時四十分ちょうど。授業のはじまりまで五十分ほどの時間が残されていて、

 ――高崎優花の絶望のはじまりまでは、ちょうど百秒ほどの猶予があった。

■2
 正門をくぐる直前、香坂美由紀は高崎優花の背中を見つけた。最初はよく似た人だなと思ったが、桂花に向かって手を振っているところを見ると本人だろう。思わず空を見上げる。晴天だ。今日は朝からいい天気だった。なんてことだ。おかげで傘を持ってきていない。いや、こんな時間に優花が登校するということは、雨なんかでは済まないかもしれない。
 馬鹿なことを考えている間に、友人の背中がいつの間にか消えている。美由紀はあわてて正門をくぐった。昇降口で靴を履き替えている優花を見つけて、ほう、と吐息を漏らす。
「優花さん!」
 声をかけて足を早める。一瞬びくりと背中を震わせて足を止めると、優花はゆっくりと、……いやにゆっくりと、こちらを向いた。
「おはようございます。どうしたんですか、こんなに早くに」
「……」
 振り返った優花は、どこかぼうっとした表情でこちらを見ている。なんだろう。まるで知らない人に声をかけられたような顔だ。
「優花さん?」
「……ああ、うん。おはよう」
 そう言って、かすかに笑みを浮かべる。
「珍しいですね、こんな時間に」
「こんな時間……今、何時くらいだっけ」
「いやだ、目の前に時計があるじゃないですか」
 言われてはじめて気がついたように、優花は昇降口からすぐの多目的ホールに目をやった。数秒視線をさまよわせて、壁にかけられた時計を見つける。七時四十分。部活もしていなければ日直でもないはずの優花が登校するには、いささか早すぎる時間だ。
「ああ……本当だ、早いな」
「……時間を間違えたんですか?」
「いや、うん、大丈夫、大丈夫だよ」
 ぱたぱたと手をひらめかせて、優花は軽く頭を振った。何かを振り払うような仕草だ。
 なんだかおかしい。優花はこんなにおとなしい子ではないのだが。
「具合が悪いわけでは、ないですよね?」
「違う、大丈夫だよ。早起きしすぎて、歯車が狂ってるみたい」
「それはなんというか……しっかりしてください、というか」
「そうだね……ちょっと急ぎすぎたな」
「早く来たと思ったら、これですもの」
「……」
 ほほえむ優花に笑いかけて、靴を履き替える。そうして、二人は歩き出した。優花の足は普段より少しだけ遅く、美由紀が先導するような形になる。優花が後ろを歩くというのは、考えてみれば珍しい。いつだって真っ先に駆け出すのに。
「用事があるわけじゃないなら、日直の仕事を手伝ってもらえると嬉しいです」
「うん」
 言葉少なに返事をする優花を少しだけ心配しつつ、目的の教室にたどり着いた。廊下の角、一年A組。中に入ろうとしたところで、
「ごめん――ちょっとトイレに行ってくる。鞄、置いておいて」
「あ、はい」
 と、優花が通学鞄を渡してきた。素直に受け取って、きびすを返す背中を見送る。トイレは、一年A組のちょうど反対側の角だ。遠いというわけではないが、今目の前を通ってきたのだから、その時に言ってくれればよかったものを。
「なんでしょうね……」
 早起きしたから調子が悪いなんて、困った娘だ。美由紀は苦笑しながら教室に入ると、優花の机に鞄を置いた。

**

 個室に入った優花は下着も脱がずに洋式便器に腰かけ、深く長い息を吐いた。それから、関節の動きを確かめるように、上半身だけ軽いストレッチを行い「ふむ」と納得したようにつぶやく。
「いいカラダだな」
 そうして、薄く笑みを浮かべた。
「高校……中学生か。一年の教室だったよな。ふうん……」
 制服のポケットをひとつずつ確認していく。どうやら生徒手帳は持っていないようだ。そのかわり、折りたたみ式の携帯電話を発見した。
「お、これこれ……」
 手慣れた操作で使用者情報を確認する。画面に映し出された情報に一通り目を通して、
「タカサキ、ユウカ」
 優花はそう、自分の名前をつぶやいた。「タカサキユウカ」「タカサキユウカ」と、何度も何度も繰り返す。英単語を忘れまいとする、試験直前の学生のように。
「おーけー、高崎優花。ふむ……」
 カチカチと親指が携帯の上を踊る。ほどなく呼び出されたのは履歴画面だった。着信、発信の経緯が、番号や名前とともに羅列されている。着信発信、ともに一番多いのは、高崎桂花という名前だった。
「家族か」
 ならばこれはパス。その次は紫藤暦。次が香坂美由紀。そして凍馬心とつづく。優花はその三人に同じメールを送った。『ちょっと遅くなるかも』という簡素な一文だ。
 即座に二人から返信が来た。紫藤暦からは『なにを今更』というやはり簡潔なもの。香坂美由紀からはおなかの調子でも悪いのか、と優花の体調を心配する文章。
「ん、あの女は香坂美由紀だな……よしよし」
 うなずいて、優花は携帯電話を閉じた。とりあえずコイツの出番は終了だ。
「相性はまずまず……だな」
 笑みを浮かべたまま、優花は立ち上がった。軽く屈伸して肉体の調子を確かめると、シュルリ、と制服のスカーフをほどく。手間取ることもなく制服を脱いで、丁寧に折りたたんだそれは、とりあえず蓋を閉めた便器の上に重ねておく。
 そうして下着姿になった優花は、自分の体をじっくりと見下ろした。
 やっとティーンに踏み込んだばかりの肉体は、成熟しきってはいないが未熟とも言い難い、独特の瑞々しさと色気を持っている。手のひらにおさまってしまう程度の心許ない膨らみを包むのは飾り気のないスポーツブラで、上下はもちろんそろっていない。無駄な肉はついていないが筋肉質というほどでもない、健康的なおなかを指でつつ、と撫でると、腰の裏側あたりにぞわりとした感覚が這い寄ってきた。そのまま視線を下げていくとやはり飾り気のない綿の下着にたどり着く。分厚い生地を指でつまんで覗き込むと、一見無毛としか思えない恥部が見えた。視線はそのまま、すらりと細い脚へと向かう。紺のハイソックスと上履きはさすがに脱がないでおく。その必要もあまりない。
 上履きまでを視線におさめると、優花は背中に手を回した。指先に固い感触。どうやらホックがついているタイプのスポーツブラらしい。手際よくホックを外すと、つつましい胸があらわになった。
 なだらかな曲線で描かれるふたつの膨らみは、ブラをつけていた時よりも心なしか大きく見えた。それでもたかがしれたサイズだが、形がよく、こぶりゆえにツンと上を向く桜色の乳首を見ると、はやくいじめてやりたい衝動に駆られた。
 最後に、優花は細い指先を下着の中にもぐりこませた。感触を楽しむように恥丘を指の腹でなでさすり、どうやらピッチリと口を閉ざしているらしい秘裂に、そっと指を這わす。名状しがたい感覚がおなかの下あたりでぐるぐると転がり始めると、優花はすぐに指を抜いた。
「おーけー」
 軽く両手を広げて、くつくつと笑い声をあげる。まるでエンターテイナーのように。
「オーケーオーケー。非常にオーケー。問題なく動く、カラダも綺麗、そしてきちんと処女だ――おいおい、完璧じゃねーか」
 深く息を吸い込んで、
「声もかわいい」
 陶然とするように、優花はそうつぶやいた。
 一度はしまった携帯電話をもう一度取りだして、時間を確認する。表示時刻は七時五十六分。今回は、最初から時間もたっぷりある。
「高崎優花ちゃん、ははッ、これからよろしく頼むぜえ」
 自分自身に対して不可思議なことを言うと、優花は制服を手にとって着直した。ブラは外したままだったが、それ以外は上から下まできちんと身につける。
「時間があるっつっても、トバしすぎるとよくねえからな……」
 そうして準備を整えると、優花は蓋をしたままの便座に腰かけた。ほんの少し腰を浮かせて、するり、と下着を引き下ろす。
 用を足すのではない。便座の蓋はしまったままだ。
「ひゅぅ」
 下着から左足だけを抜き取って、優花ははしたなく膝を広げた。プリーツスカートを指先でつまむと、自分自身を焦らすように、ゆっくりと持ち上げる。吐く息に自然と熱がこもり、細めた瞳が淫猥な空気にとろけはじめる。
 そうしてプリーツスカートの奥から、それがあらわれた。
 ひやりとした風がなにもまとわない秘部を撫でていく。幼子のように口を閉ざしたそこは、ほんのかすかな繊毛が寂しげに震える、ほとんど無毛の丘だった。
「は……」
 まだ何もしていないのに、期待感だけで声が震える。左手でスカートをつまみあげたまま、右手をそっと土手に這わせた。力をこめると、ほどよい弾力とともにぷにゅ、とそこの肉がつぶれる。左右の淫唇を交互にぷにゅぷにゅと押し込んで、優花はくつくつと笑った。
 ひとしきり遊ぶと、中指を秘裂に沿わせる。指先がかすかにもぐる程度のところで、あくまで静かに、指を上下させはじめた。
「ふ……」
 快感――といえるほどのものはない。腰の内側にざわざわと『何か』がわいてくるが、どちらかといえば不快感や嫌悪感に近い。だがそれすら楽しむように、優花はぺろりと唇をなめた。
「調教しがいがあるね……」
 笑みを浮かべたまま、指の動きを早くする。ぞわり、ぞわりと不快感が這い上がって、優花の体に巻きついていく。気持ち悪い。座っているのに、揺れ動く床の上に立っているような気分だった。
 それでも、優花は指を止めない。ストロークをはやめながら、息を荒くして淫裂をこすりつづける。やがて、

 ちゅく、

 と、かすかな水音が指と秘裂の間からこぼれおちた。
「ほぅ……」
 ほんの少し、指を押し込む。生ぬるい感触と熱が指先から伝播して背骨を巡り、腰の裏側にポツリと火を灯す。
「ん……んぅ」
 自分を盛り上げるためにつとめて甘い声をあげながら、優花は肉襞の形を確かめるように指をくねらせた。もう少し奥へ。もうちょっとだけ奥へ……ぞわぞわと生まれる不快感と違和感は限度を超え、灯った火を取り囲んで騒ぎ立てる。気持ち悪い。目が回る。息がつまる。
「ついた……」
 そうして、優花の指先はそこにたどり着いた。指先でチョン、とつつくと、ぶるりと下半身が震える。まだ誰も、何も受け入れたことのない、正真正銘の未踏……膣の入り口だ。
「ん……」
 力をいれても、指一本すら入りそうにない。全身を浸す嫌忌は吐き気すら覚えるレベルで、体中の血が毒にかわってしまったようだった。ぐるぐるとおなかの中で得体の知れない感覚が渦巻いている。優花は額に汗を浮かべながら、膣の入り口をやさしくなでさすり、
「んうぅうっ!」
 一息に指をつきこんだ。
 とたん、体中に渦巻いていた嫌悪と違和が膨れあがり、一斉に弾け飛ぶ。冷え切った毒の血が沸騰して燃え上がる。そして、

「――ふうぁあんっ」

 かすかに灯っていた種火が爆発した。
 それまでの感覚が全て裏返り、一斉に子宮へとなだれ込む。視界がバチバチと明滅して、呼吸が止まってしまう。肺の中身が全て燃えてしまったみたいで、きちんと息ができない。あまり大きな声を漏らすのはまずい。優花はとっさにスカートの裾をくわえこんだ。
「ふむぅ……」
 くぐもった声をあげて、ぬちゅり、と指を折り曲げる。先ほどまでは不快でしかなかったのに、電気でも流されたみたいに強烈な刺激がほとばしる。左手を添えて淫裂を開くと、充血した肉襞の奥から、どろり、と濃密な愛液があふれ出した。
「ん、んんぅ……っ」
 ゆっくりと指を引き抜くと、べっとりと絡みついた淫蜜が膣口との間に糸をかけた。左手で淫裂を広げたまま右手を口元まで持ち上げると、くわえていた裾を右手に渡して、そろりと舌を伸ばす。ぴちゃり、と指に舌先が触れ、そのまま引きずりこむように口内へと差しいれた。ぬるり、と味蕾にまとわりつく愛液は、そんなはずはないのに、不思議と甘く、とろけるような味を錯覚させた。
「ふむぅ……」
 指先をくわえこんで、舌で形を確かめるようになで回す。爪の隙間に舌先を押し込んで、中に入り込んだ淫水をこそぎとる。ちゅぱ、ちゅぱと音をたてて吸い上げながら、舌全体をまとわりつかせる。淫汁まみれの中指は、ほどなくすっぽりと口内におさまってしまった。
「んん……んんぅ……ふううっ!」
 しつこく舐め回す舌に応えるように、もぐりこんだ中指もまた口内粘膜を愛撫しはじめた。舌の中程を優しくなで上げると、広げられたまま触れられない股間に、ぞくりと快感の微電流が走る。切なげに腰をよじって、優花はなおも舌責めをつづけた。
 中指に加えて人差し指も口内に入り込み、やわらかな粘膜を丁寧になぶっていく。指が一度弧を描くたびに、優花はこらえきれずに体をくねらせた。
 しかしそれは決定的な刺激にはならない。もどかしいまでに弱々しい、飲むほどに渇いていく、海水のような快感だ。
 もっと欲しい。もっと強く、もっと激しく、もっと致命的な何かが欲しい。
「んぁあ……」
 見れば。
 いやらしく痙攣する淫部が、何より雄弁にそう語っていた。肉襞が震え、膣口が広がり、膨張と収縮を繰り返しながら『入れてくれ』と叫んでいる。
「そんなに、欲しいのかよ」
 口からだらりと指を抜いて、優花は口元を吊り上げた。笑った、というには、その表情はあまりも悪魔的すぎた。
「ん」
 もう一度スカートの裾をくわえて、右手を秘所へと下ろす。愛蜜と唾液でべたべたになった指を、そのまま、痙攣する淫肉へとつきこんだ。
「んっ……んんん……っ!」
 びくりと背を反らせて、優花は歯を食いしばった。スカートの生地が傷んでしまう。だけど、そんな余分を考えることができたのは一瞬だ。
 右指が、先ほどの比ではない勢いで膣を蹂躙しはじめた。湧き出る愛蜜をかき乱して、淫音を響かせながら挿抜を繰り返す。舌愛撫で昂ぶり、同時に焦らされた淫裂が、待ち焦がれた衝撃に震え上がって歓喜の声をあげている。ぐちゅり、ぢゅぶり、というそれは、ヘタをしたらトイレの外にまで聞こえてしまうのではないかと思うほど大きく、個室の中に響きわたった。誰か来るかもしれない。気づかれてしまうかもしれない。
 ――それすら、今の優花にとっては快感を押し上げるためのアクセントだ。
「ん、ん、んん、んむぅうう……っ」
 泡を吹いて喜ぶ膣を見て我慢できなくなったのか、そこで左手がそろりと動き出した。外周をたどるようにくるりと快楽の外側をなぞり、そのまま、
「ふぅぁああああっ!?」
 ちゅぷ、とかわいらしく膨れかけたクリトリスを押しつぶした。
「ふっ、ふ、ふぁっ……」
 ガクガクと腰が揺れて、体が便器に衝突する。比喩ではなく、視界が本当に白く染まった。意識まで一瞬飛びかける。あわてて頭を振って、どうにか失神を免れると、優花は半ば呆然と自分の股間に目をやった。うっかり口を放してしまったせいでプリーツスカートが落ちている。おかげで、肝心の部分がよく見えない。
「……」
 ごくり、とのどを鳴らして、もう一度、優花は指先で探るように淫核をなで上げた。
「ぃぁっ……ぁあああっ、ふ、ふぁ……」
 背骨を一直線に突き上がった淫感が、脳髄をしびれさせて駆け抜けていく。口を閉じることさえままならず、優花はまなじりに涙をためて吐息をこぼした。
「な……んだこれ……」
 想定外すぎる――敏感というにもほどがある。今まで感じたことがない類の刺激だった。もう一度、もう一度だけと、くにゅ、とソレをつまみあげてみる。
「んぁあっ……ぁつ……ぁあっ」
 覚悟していたにも関わらず、声を抑えることができなかった。だめだ、これはだめだ。ちょっとした味見のつもりだったのに、
「本気になっちゃ……ぁあああっ!」
 もう止められない。
 右手の挿抜を再開すると同時に、覚悟を決めたように左手が淫芽をしごきはじめる。これでまだ包皮をかぶった状態なのだ。剥き身で触れたらどんなことになるのかわかったものではない。
「あぁ、あ、あああっ、んぁああっ!」
 声を抑えることなど完全に忘れて、優花はのどを反らせて性悦をむさぼった。ぽろぽろと涙と涎がこぼれて、制服を汚していく。撹拌されて泡立った蜜が、スカートとふとももに点々と飛び散った。
「うぁ、あ、あああぁあっ、あぁ、あ、あ、」
 半ば腰を浮かせて、背を反らせて、いやいやをするように頭を振って、それでも指だけは止められない。体も心も、どこもかしこも震えていて、正常な部分なんてひとつもない。脳みそすらグラグラと揺れていた。だんだんと、自分の状況がわからなくなる。ただ、その感覚だけが全てになっていく。
「あ、あ、ふ、ふぁ、ぁ、あ……」
 その瞬間を予感して、優花はぎ、と歯を食いしばった。ここで我を忘れては、どれほどの叫び声をあげてしまうかわからない。聞きつけられたら弁解のしようもない。
「―――」
 来る快楽に指が震える。期待と、恐怖と、そしてなにより全身をとろかす悦楽の予感に従って、二本の指が処女道を邁進し――

 ――きちゅっ――

 ――左指が、淫豆を握りつぶした。
「ふ……」
 一瞬、その刺激を受け止めきれずに意識を飛ばし、
「ふぁああぁあああああ――――――ッ!!」
 次の瞬間、激烈な感覚に襲われて優花は絶叫した。
 全身の毛穴が開き、全ての毛が逆立っていくようだった。感覚という感覚が振り切れて、世界が一瞬で虹色に染まる。鋭い放出音が響いて、両手を冷たい感触が叩いた。
 背を反らせて腰を浮かした姿勢のまま、靴の中でつま先を丸めて、優花は十秒近く震えていた。全身の空気を入れ換えるような深すぎる呼吸を繰り返して、ゆっくりと腰を下ろし、背を丸める。吐く息すら震えていた。
「ふぅ……はぁ……」
 ようやっと呼吸が落ち着くと、全身を弛緩させて、優花は天井を仰いだ。震えは止まらず、体の奥では微熱のように快楽がくすぶっている。見れば、両手は汁やら液やらでぐちょぐちょで、制服にもしっかりとシミができている。プリーツスカートなど見れたものではないし、セーラーカラーやスカーフにも愛蜜まじりの涎がこぼれ落ちていた。
「あっちゃあ……」
 ここまでする予定ではなかったのだが。
「まずったなあ。着替えなんてねえぞ」
 立ち上がると、便器の蓋におもらしかと思うほどの淫水たまりができていた。ぽたぽたと床に雫を垂らしながら、濃密な女の匂いを振りまいている。
「どうするかな」
 そろそろ時間切れだろうし、だんだん面倒くさくなってきた。もうこのまま放置して何もかもなかったことにしてしまおうか。
 半ば真剣にそう考え始めたとき、
「あの……誰かいるんですか?」
「あん?」
 扉の外から、声が聞こえた。
「あの……大丈夫ですか? すごい声が……聞こえたから」
「……」
 やはり外まで響いていたらしい。それはそうだろう。
 どうすべきかしばらく考える。いくつか言い訳もあるが、待っている間に相手が何か言う様子はなく、相談している気配もない。
「ひとり?」
 ややって、優花はそう尋ね返した。
「ふぇ!? は、はい……」
「他に誰も気づかなかったのか?」
「聞こえた人はいたみたいですけど……」
 なるほど、気にした奴はいなかったらしい。平和な学校でいいことだ。
「ごめん、ちょっと手伝って貰えるかな」
 言いながら時間を確認。八時十分。少し厳しいが、まあ、間に合う範囲だろう。扉の向こうでは戸惑った声がしているが、かまわず優花は鍵を開けた。
「あ、あのう」
 そこにいたのは、優花よりもいくらかスケールの小さい、おとなしそうな少女だった。今時前髪がきっちりそろったおかっぱ頭で、探しても買えないようなださい眼鏡をかけている。おどおどしてびくびくして、見ているだけで犯したくなる。
「こっち入って。大丈夫、すぐすむよ」
「は、はい」
 訝しげに、それでも促されるまま個室に入ってきたその子の肩をそっと抱く。びくりと震えてこちらを向く少女に笑いかけて、優花は後ろ手で器用に扉の鍵をかけた。
「なに、簡単だよ。ちょっと裸になって、その制服をくれりゃいいんだから」
「え……?」
 泣きそうな顔で半端な笑みを浮かべるその子に、優花は緩やかに口の端を吊り上げた。
 まるで悪魔のように。

**

「おかえりなさい」
 教室に入ると、美由紀がひょい、と手をかかげた。手を振りかえして、ゆっくりと室内を見渡す。自分の鞄が乗っている机を確認して、一度美由紀のところに歩み寄った。
「遅かったですね……大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
 時間は八時二十六分。予鈴はもう鳴っている。生徒たちは談笑しながらも、徐々に自分たちの席に戻りつつあった。
「さっき暦さんが変なメールきたって見せにきましたけど」
「暦……ああ、間違ってふたりに送っちゃったんだ」
「あらあら」
 優花が照れ隠しのように笑うと、教室の扉が開いた。ひょろりと細長い、マッチ棒のような男が入ってくる。
「座れー。出席取るぞ」
 教師だろう。目配せする美由紀に頷いて、優花は小走りに机に向かった。生徒の九割は自分の席についている。優花の鞄が乗った机には誰も座っていない。
「よし」
 小さくつぶやいて、優花はその席に腰かけた。同時に、ぐらりと視界が揺れる。そろそろ限界のようだ。時計を見るまでもなく、チャイムの音が三十分ちょうどを知らせてくれた。
 七時四十分から八時三十分まで。およそ五十分強。
「きりーつ」
 美由紀の声に従って(そういえば日直と言っていたか)立ち上がり、一礼して座り直す。教師が何事かしゃべりはじめたのを子守歌に、優花は腕で枕を作って目を閉じた。
 しょっぱなから飛ばしすぎただろうか。いや、今回はきっとこのくらいでいい。久々に、楽しい生活を送れそうだ。
「よろしく頼むぜ……高崎優花ちゃん」
 悪魔じみた笑みを浮かべて、優花の意識はゆっくりと、泥のような暗闇に落ちていった。

(未完)