手が動かない。
 部室で目覚めた百田未悠は、自分の右腕を見て首を傾げた。曖昧で茫洋とした意識が、混濁した記憶の中から眠る直前の出来事を呼び起こす。
 ここは文芸部室で、自分は文芸部員だ。会議用の長机がふたつ向き合うように並べられている小さな部屋で、後ろの壁一面を大きな本棚が埋めている。その対面の棚には歴代の文芸誌がきれいに収納されていて、脇には二か月まえに持ち込んだ電気ケトルが鎮座ましましている。それを使ってお茶をいれてくれる副部長も、一緒にいたはずの部長の姿も今はない。未悠ひとりきりだ。机の上では銀色の鍵が、窓から差し込む夕日にキラキラと輝いていた。
(先に帰ったのか――)
 目の前には読みかけの本が置かれている。ハードカバーの海外SFは、ちゃんと閉じられて スピン も挟まれている。寝入ってしまった自分のために部長がやってくれたのだろう。
(……で)
 夕暮れに赤く照らされる部室で、未悠は改めて首を傾げた。状況はわかった。ちゃんと目も覚めた。なのに、この手が全く動かない。白い半袖のブラウスから伸びた細い腕は、意思に反してうんともすんともいわない。
 寝起きで痺れているのかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。感覚はちゃんとある。本格的な夏を前にした湿った空気も、会議机の冷たい感触も、きちんと肌が受け取っている。なのに意識と肉体の回路だけがプッツリ途切れているように、未悠の右腕は微動だにしない。
(なんだろう……?)
 おかしいと思いつつ、未悠は立ち上がると左手で眼前の本を持ち上げた。こっちは動く。というか、ほかの部分は全部正常だ。それなのに、右腕はだらんと垂れ下がって、未悠の脇でぷらぷらと揺れている。感覚があるだけに異常さが際立つ。どうしたというんだろう。
 バサリ、
 と、そこで変な音がした。本を落としたような音だ。視線を向けると、部長がきちんと閉じてくれたのだろうハードカバーが部室の床に転がっていた。落ちた拍子に本が開けて、本文を下にぐしゃりとつぶれている。たぶんページが折れた。副部長に殺される。
 絶望的な気持ちになりながら本を拾おうとして、未悠は遅ればせながら左腕の異常に気付いた。
 動かない。
(え……)
 右腕のようにぷらんと垂れ下がった左腕は相も変わらず微動だにしない。一瞬の意識の空白。事態を理解した――わけはわからないままだが――頭が恐怖を自覚する前に、
「えっ」
 がくん、と膝が折れた。
 落ちた本の上に体が倒れる。踏ん張ろうとしても、体がどこもいうことを聞いてくれない。手をつくこともできずに床に頭を打ち付けて、未悠はかすかに呻いた。
(なにこれ、なに――)
 意味がわからない。病気かなにかだろうか。筋肉が動かなくなる病とか、聞いたことがある。でもこんな突然に、前触れもなく? 両手両足どころか、体を捩ることもできない。
(たすけを――)
 呼ばなくては。
 そう思って、しかし実現はしなかった。夕暮れの部室棟、まだまだ生徒はいるはずだ。声をあげれば誰かは来てくれる。ここでこのままなんてことはありえない。それなのに、誰も未悠を助けてくれなかった。
 声が、出なかったからだ。
「……っ!」
 口を開いても音にならず、そもそも中途半端に開かれた口はそれ以上開くことも閉じることもできない。人形のように身動きできず、声もあげられず、
(息――が!)
 ついに、肺まで活動を止めた。
 冷たい床の上で、未悠は眼を見開いたまま、やっと恐怖した。これは異常だ。それも、命にかかわる異常だ。このままでは窒息して死ぬ。いや、それ以前に――
(――ぁ――)
 ――それ以前に、これ以上体のどこかが止まったら、その時点でおしまいだ。
 未悠はもう何も見ていない。最後に見たのは会議机の脚にこびりついた埃だった。誰もいない夕暮れの部室で、百田未悠の心臓は完全に停止した。

 そして、

「がはッ!」
 次の瞬間、未悠の体は勢いよく跳ね起きた。上体を反らして天井を見上げる不自然な態勢で、全身の毒を吐き出すような荒い呼吸を繰り返す。乱暴すぎる呼吸に驚いたように両手足が跳ねて、未悠はまた転んだ。
「は――はァッ! しんぞ……心臓止まった! 死ぬかと思った!」
 床を転げながら、未悠は悲鳴じみた声でそう言った。ビクビクと跳ねまわる四肢が落ち着くのを待って、ふううう、と大きく息を吐く。同じだけの深さで空気を吸い込んでゆっくりと立ち上がる。ふらついて倒れそうになるが、左手がかろうじて机の端をつかんで持ち直した。
「っぶねー……どうしていつも肺と心臓を後に回しちゃうかねえ」
 両の脚でしっかりと体重を支え、掌をかざした未悠はそこでかすかに笑った。いつものごとくミスはあったが、それでも今回はどうにか成功したようだった。
『なに――なにこれ!』
 頭の中で悲鳴じみた声が響いたのはその時だ。悲鳴じみた――いや、まさに悲鳴というほかない恐怖と困惑に満ちたその声は、考えるまでもない、この肉体の持ち主の声だ。
「意識があるのか――自我の強いやつだな」
『どういう……なんなのこれ!』
 彼女の世界が今どうなっているのかわからない。だがこちらの声は聞こえているだろう――感覚はすべて共有しているはずだ。
「はじめまして女子高生。お前のカラダ、借りてるぜ」
 一瞬の空白。言葉の意味を理解するのに数秒をかけて、声は『なんなの!?』と悲鳴を繰り返した。
『カラダ――体!? どういうこと……なんで動かないの?』
「オレがいるからさ。今、このカラダはオレが動かしてるんだよ」
『なにそれ……なんなのよ、出てって、返してよ!』
「無茶を言うなよ。これでも苦労して這入ったんだぜ」
 先ほどまで未悠自身が座っていた椅子を右手で引いて、ゆっくりと腰かける。安物のパイプ椅子がギシリと鳴って体重を受け止めた。
「自己紹介をしよう。相互理解のためには必要なプロセスだろ? オレはヨスガ。一言でいうなら、まあ、亡霊だな」
『あ、あんたのことなんてどうでもいい……! 出ていってってば!』
 カラダの内側でこだまする悲鳴に笑みが深くなる。感覚はすべて共有している。そして、感情もリンクしている。絶望が、恐怖が、焦燥が、憤怒が、混沌と渦巻いているのを感じるのだ。
「たまらねえな……」
 他者の感情が自分の内側で波打つこの感覚。これこそが未悠が――未悠のカラダを奪ったヨスガが求める快楽だった。
『なにがよ! 出て行って――あたしの体を、返してよォ!』
 今『未悠』は泣いているのだろうか? 彼女の現状は、ヨスガをしてすら想像を絶する――肉体を持たず意識だけになりながら、それでも感覚そのものは明瞭に残っているのだ。座り慣れたパイプ椅子、冷えた会議机、夕日に照らされる部室、風の音、本のにおい、漂う放課後の空気まで全て。
 右手がなでる、胸の感触すらもだ。
『なに――なにしてるの!?』
「なにって」
 制服の上から、細くて小さな手がつつましい胸に触れている。力をこめると制服と下着に阻まれた中途半端な感触が返ってきた。
「おっぱいだろ、まずは」
『やめてよ!』
 悲鳴に頬をゆるませて、一旦腕を離す。安堵するような気配を胸のうちに感じてゆるんだ頬をさらに歪ませると、ブラウスの胸元に手をかけて一気に引きちぎった。圧力に耐えかねたボタンが弾け飛んで、部室の隅にカラカラと転がっていく。
 ブラウスの下は、薄いピンク色のハーフカップのブラジャーだった。一枚挟まないと透けてしまいそうな気もしたが、そのあたり無頓着な女子なのだろうか。
『――ちょっと!』
 だとしても、この状況を看過はできないだろうが。
『やめてよ! 見ないで!』
 抗議の声に応えず、細い両手がブラジャーの内側にもぐりこんだ。ふに、という音を聞いた気がする。掌にすっぽりおさまってしまう控えめな乳房はじわりと熱を持って、冷えた両手をあたためる。ほんのすこし力をいれると、ぐにゅりと形がゆがむのがわかる。胸を手が揉んでいる感覚、そして、手に胸を揉まれている感覚、ふたつの感覚が同期して心臓をトクンと跳ねさせた。
「いいね、十代。ハリが違う」
『離して! やめてよ!』
「そう言わずに楽しめよ。なかなか経験できないぜ、こんなの」
 言いながらも胸を弄ぶ手は止めない。さするように、こねるように、率直に、回りくどく、円を描いて、縦に揺らして、優しく、力強く、思いつく限りの方法で少女の柔乳を蹂躙していく。
『やめて……やめてよ……』
 あれほど叫んでいた声も次第に力を失っていく。無理もないとヨスガは心中で頷いた。彼女は間違いなく凌辱の憂き目に遭っているが、それを行っているのは自分自身の両手なのだ。自分の手が自分の胸を揉みしだく異様な感覚。嫌悪と、忌避と、そしてヨスガの抱える嗜虐と興奮すらも未悠は共有しているはずだ。意思と反した肉体と精神のうごめきは、幼い少女を疲弊させるには十分すぎる。その矛盾を愉しむヨスガのような余裕は、彼女にはない。
 とはいえ、このまま言葉少なになられても興ざめだ。ここらで刺激を与えてやったほうがいいだろう。執拗な愛撫の手を一旦休めて、ヨスガは今まで触れなかったそこにそっと指を這わせた。あたたかくやわらかな丘の頂点で、恥辱を待つように身を固くするピンク色の淫芯。ひとさし指で軽くこねるともう十分に尖っていることがわかる。
「元気出せよ……ほら!」
 二本の指でつまんだそこを、ヨスガはキュッとひねりあげた。
『やめ――ンンッ!』
 うつろに否定を繰り返していた未悠の声が高く跳ね上がる。胸を揉むという行為は恥辱こそ感じるだろうが直接的な刺激に乏しい。それに引き換え乳首は単純に感度が鋭い。
「んフッ……」
 もちろん体を操るヨスガにもその感度が襲いかかる。だらしなく広げた鼻の穴から呼気を噴いて、乳首をこねる手の動きを早くする。濃密な愛撫でじわりじわりと高まっていた柔丘の熱が、一気に頂点へと収束していく。指先で転がし、つまみ、弾くたびに、集まった熱が膨張して逆流し、つつましいおっぱい全体に広がっていく。そうしてまたその熱が弄ばれる乳首に集まり、逆流し、やがて疼く淫熱はからだ全体に伝播していく。
「ふゥ、ん、んん……」
『や、ぁ、やぁ……』
 喘いでいるのは未悠のカラダだけではない。未悠の心も快感に抗しきれずに甘い声を漏らしている。ぞくりと肩甲骨が震え、背骨がとろけだす。体の芯が淫熱に負けて、どろどろと流れおちていく。粘つくそれが腰を濡らして、やがてへその下にたまっていく。
「あ、はァ……はぁ、んっ……」
 気がつけば、膝をこすりあわせて腰をくねらせている。もどかしさが子宮の中でうごめいて、膣道を逆流して秘部を煽っているのだ。
 早く、早く触ってくれと。
「がまん、できね……」
 するっとブラジャーから手をぬいて、ヨスガは未悠の両手をだらりとおろした。さんざんに乳を嬲った両手もまた熱にうかされて、指先がかすかに震えている。
『ぁ……ぁれ……?』
 乳愛撫から解放された未悠が、戸惑うような声をあげた。もどかしさと切なさを煮詰めたようなその声からは、どうしてやめるの、という言外の抗議が香っている。
「安心しろ、やめないよ――ここからが本番だ」
『あ……まって、ちがう――』
 違わない。ヨスガと未悠はつながっている。その戸惑いも、嫌悪も、快感も、期待も――全てを共有しているのだ。
 プリーツスカートの脇から両手をさしいれると、ショーツに指をかけてわずかに腰を浮かせる。そのままスルリと膝の手前まで下着をおろす――とたん、ひやりとした風が股間を撫でて、ぶるりと腰を震わせた。
 気がつけば夕焼けも終わって、部室はすっかり暗くなっている。星と月のかすかな明かりが、未悠の体を幽暗の中にうっすらと浮かび上がらせていた。肌の上に浮かぶ汗の玉がキラキラと輝いているような気がする。
「は……ッ」
 スカートの内側でゆっくりと足を開く。未悠が『やめて』とかぼそい声で期待と裏腹の否定を叫んでいる。すでに快楽の種が充溢した丘に指を沿え、スリットをなぞるように優しく上下させると、かぼそい声は更に弱まった。
「はぁ……はぁ、ふゥ……いく……ぞ!」
 くち、と陰唇に指をもぐりこませ、そのまま、未悠は自らの恥部に二本の指を突き立てた。

 ――びちゃっ

 耳を叩いた淫音は、幻聴ではない。
『い、いや……っ』
「なん……」
 そこは既に濃厚な蜜であふれていた。快感を証明する愛蜜は指先にからみいて淫猥な声をあげる。ろくに触りもしないのだろう未悠の靡肉は、それ自体がひくつきながら今か今かと淫撫を待ち構えていたのだ。
「準備万端かよ」
『ちが、ちがう――』
「違わないんだって」
 笑って指をさらにつきこむ。にちゅ、ぐちゅ、と悲鳴をあげる肉畝を指先で揉みしだくと、ごぽり、と冗談のような音をたてて蜜がまたあふれだす。くつろげた唇からこぼれおちた淫蜜は椅子を汚し、そのままぴちゃぴちゃと音を立てて床を舐めまわす。
『や、やぁっ、やだぁ……音、やだあ!』
 耐えられなくなったように未悠が叫ぶ。だが彼女の心を裏切るように、彼女の体は指愛撫に敏感に反応して悦蜜を吐き出しつづける。秘肉をこねくりまわす指はいつの間にか四本に増えて、漏れる淫音もその響きを強くする。
「はぁ、は、はっ、はぁ……」
 背骨をとろかし、子宮にたまり、そして今もてあそばれる唇からあふれる快楽は未悠自身の指で花開き、全身を浸している。未踏の膣をさかのぼって子宮へ還り、そこから神経に浸潤していく。合わせた膝がカツカツとぶつかり、腰がうごめくたびに椅子がギシギシときしむ。ボタンが外れたブラウスの衣擦れが耳を撫でて、足が床を叩くたびに水音が跳ねる。荒い吐息と髪のこすれる音がそれを追いかける。そして、
「あ、あぁ、あぁあっ、う、ん、うん……ふゥ、んんっ」
『ふ、ふぁあ、あ、うぅああっ、あっ、あぁあ……っ!』
 重なるふたり分の嬌声が、すべての音を淫らに変換していく。
『やぁ、やだ、ああぁっ、うぁあっ』
 ぐちゅぐちゅと股間が悲鳴をあげるたび、淫蜜に濡れた神経がビクリと震える。何度も体を揺らして、半開きなった口元から喘ぎと一緒に涎がこぼれるようになっても、まだ指の蠢きが止まらない。『もうやだ』『もうやめて』『たすけて』未悠の悲鳴が懇願に変わりはじめた頃、
「はっ、あ、ぁあ……じゃあ、おわりに、するか」
 そう言ってヨスガは指の動きを止めた。
 さんざんに嬲り尽くした秘部は蜜まみれになりながら痙攣じみた動きで「その先」を誘っている。あらゆる神経に行き渡った快感は呼吸するだけで脊椎を震わせる。昂った淫熱が感覚を引き上げて、今や風に触られるだけで肌が敏感に震えている。
『ぇ……え……?』
 熱にうかされるような声に釣り上げるような笑みで応えて、左手だけで淫部を割り開く。ごぽごぽと蜜がこぼれおちる音が響く。右手が慎重な動きでその中にもぐりこみ、熱のこもるその奥、淫感のうずまく暗がりへとたどり着いた。
『え――』
 そこが一体なんなのか、一瞬で悟った未悠が冷え切った声をあげた。そこは、それは、
『待って!』
「いやだね」

 ぶちゅっ――

 粘つく淫液をかきわけて、ひとさし指と中指がまだ異物を知らない未通の膣を踏み抜いた。
「ふっ、あぁああああっ!」
『いやぁあああぁあっ!』
 瞬間、全神経が震えて跳ねた。
 未悠は知らなかった。全身を淫猥な炎にあぶられながら、それでもまだ耐えていられた理由。自分が悲鳴をあげていられた理由。それは、あれほどの快楽に浸されながらも足りない部分があったからだ。どうしても埋められない空白があったから、その隙間に自分の意識がもぐりこんでいたのだ。
『あぁあああ――っ、あ、ぁ、あああっ!』
 今やそこは未悠自身の指で埋められてしまった。足りないピースを手にいれて、蜜悦に浸る全身が震え出す。指を抜き、突き、曲げて、ひねり、そのたびに体全部が嬌声をあげる。
「あぁああっ、あ、ふあぁあっ」
『あ、あぁあ、あぁあ!』
 ぶちゅ、ぐちゅ、にちゃ、ぷきゅっ――
 声色を変える膣の喘ぎが響いていく。もうだめだ。痙攣する神経が悲鳴をあげている。快楽に揺さぶられる脳が意識を手放そうとしている。止まらない指先がおかしくなりそうだ。何を言っているのかもうわからない。部室を満たす淫靡な音と、自分の喘ぎだけが世界のすべて。
「あ、ああ、きもち、きもちいいっ、きもちいいかっ! きもちいいだろ!」
『ふぁ、あ、ぁあああああっ、あああ!』
 問いかけに反応はない。だがその淫声がすべての答えだった。ヨスガの心と未悠の心がシンクロする。快楽の一点に向かって収束していく。限界だ――
「ふぁ、あぁあっ、ぁっ、いく――イくっ、イくぞォ!」
 挿抜をくりかえす右手はそのままに、左手が揺れる陰部の頂点に添えられる。充血し、充溢し、それなのにただの一度も触れられていないそこは、自ら包皮を脱ぎ捨ててピンとその身を屹立させていた。
 さあはやく、凌辱してくれと、願うように。

 ――ぐぢゅっ!

「『はッ――あぁあああああぁああ――――ッ!』」
 指の中で淫核が潰された瞬間、ふたつの声が完全に重なった。やさしく捻られた快楽の収束点から全身に衝撃が走り、蜜に満たされた神経が残らず発火する。もう音も聞こえない。そこを起点に体がすべて吹き飛んでいく。目の前が、頭の中が真っ白になって、自分の絶叫すら消えていく。
 純白の絶頂。
「『は、ぁ、あ、ぁあ――……』」
 びくびくと体を痙攣させ、震える息をゆっくりと吐いて、それから未悠の細いカラダは弛緩していった。椅子に背を預け、両手足を投げ出し、深呼吸を繰り返す。
『きもち、いぃ……』
 そう、かすかな声が胸のうちで響く。絶頂の余韻にひたりながら、未悠はかすかに笑みを浮かべた。それはどちらの浮かべた笑みだったのか。

 ……びちゃびちゃびちゃ……

 体の下のほうで何やらいやらしい音が響いている。ツンと鼻につくアンモニアのにおいが、淫らな女の香りに混じって漂い出した。それでも、未悠は何も言わない。快楽を受け入れた言葉を最後に、彼女は完全に黙ってしまった。
「……完了」
 未悠のカラダを――そして精神を完全に掌握したヨスガは、そこでニヤリと笑った。緩慢な動作で体を起こし、蜜と尿のまじりあった水たまりを眺めて苦笑する。
「残った意識は快感で吹き飛ばすのが一番――戻ってくるまでに二日はかかるだろ」
 まだ荒い息をどうにか整えながら立ち上がる。手も足も震えているが、大丈夫。うまく扱えそうだ。心拍も呼吸も止まっていたのに死なせずにすんだし、相性がいいのだろう。
 ヨスガは亡霊だ。器を持たない魂だ。彼は時折こうして、名前も知らない少女に取り憑いてはそのカラダを貪っている。うまくいかないことも多い。成功率は低い方だろう。
「だからこそ、うまくいったらじっくり楽しまねえとな……!」
 さしあたっては交友関係の調査だ。二日間――思う存分、遊ばせてもらおう。
 ヨスガは――
「百田未悠。モモタミユウね。んふふ」
 ――未悠は、スマートフォンをいじってそう笑うと、ボタンのなくなったブラウスはそのまま、中途半端な位置に絡まっていた下着は脱ぎ捨てて、部室から出て行った。鍵のかけられた夜の部室はさきほどまでの淫劇が嘘のように静まりかえっている。ただ、時折椅子の端から滴り落ちる蜜の響きと、床に広がる淫液だまり、そして、その中でぐしょぐしょに濡れてしまったハードカバーの本だけが、その名残を語っていた。