憑依もののえっちな小説です。
つづきです。ここからえっちです。

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「……え?」
 その言葉はきちんと耳に届いていたし、おそらくは理解もしたのだが、それでも柿村には葵が何を言っているのかわからなかった。途中式の抜けた回答を見ているようだ。式も答えもわかるのに、それを証明できない。
「そりゃ、距離もとられるわな。あっはは」
「な、なに言って――っ!?」
 言葉は、最後まで完成しなかった。びくり、と背をのけぞらせて、柿村の体が崩れ落ちた。全身に力が入らない。出し抜けに、体がまったく動かなくなってしまった。呆然と見上げる視界の中で、葵がうっすらと笑った。
「は……え……?」
「おいおい、大丈夫かよセンセ? オレの前でそんな無防備にしちまって」
「なに……?」
 わけがわからない。教え子が突然意味不明なことを言い出したと思ったら、やはり突然体が動かなくなってしまった。微動だにしない掌には小さな葵の指が絡まっている。
 ――柿村菊にはわからない。
 わかるはずもない。掌の接触から行動中枢を奪われているなんて、気づくほうがどうかしている。
「ううん、いいカラダだねえ、しかし」
「なに、これ……」
「ええと、かーきー、柿村、柿村菊センセイ。菊ちゃん。ふうん、処女なんだ」
「なっ……!?」
「この学校でも貫通済みのやつが十人はいるぜ? 遅れてるねえ」
「なに、な、なに? なにを言っているの……な、なんなの、なんなのこれ!?」
 叫ぶと同時に、柿村の腕が大きく跳ね上がった。失ったときと同じように、前触れなく制御を取り戻した腕は、葵の掌をあっさりと振りほどく。軽く触れていただけだったうえに、そもそもが子供の手だ、まっとうに動くのであれば、拘束されるはずがない。
「おっと……記憶まで一緒に探るのは無茶だったか」
「あ、あなた……あ、藍町さん、説明、説明を……」
「んん?」
 だが、解放された柿村は逃げようともせず詰問をはじめた。へたりこんだ姿勢のまま、説明しなさい、と同じ言葉を繰り返す。相手は教え子で、自分は教師で、ここは学校――柿村菊の常識には、ここで悲鳴をあげて逃げるという選択肢はないのだ。
「はあん……? だから、結構な人数がヤッてるんだって。同級生相手、上級生相手、もっと年上とか、あとは肉親相手かな。合意じゃないのもあるけど」
「そ。そんな、そ、ええ……? な、なんなの、どういう……」
「あー、だめだなこりゃ」
 あきらめたように首を振って、蔑むような視線を向けて、葵は柿村の頬に手を添えた。それだけで、また体が動かなくなってしまう。
「あ……あう……」
「どうすっかな。あー、面倒くせえ、壊しちまうか」
 どうでもよさそうに言うと、葵は頬に添えた手をそのままに、化粧の薄い唇に幼いリップを触れさせた。いまだに状況を理解できない柿村が、瞳を大きく見開く。
「ん……ふぅ……!?」
 触れている。やわらかく、少し湿った、唇の感触。悲鳴をあげる心が肉体を揺り動かし、びくりびくりと不規則に肩が震える。あいている手でその肩を抑えて、葵は唇をさらに強く押し付けた。
「んんっ」
 柿村の頭の中では、混乱だけが渦巻いていた。意味がわからない。わけがわからない。なにもかもが彼女の理解をこえている。動けない。叫べない。押しつけられるやわらかい感触の意味もうつろだ。
 ぬるり、と。
 混濁した思考を割り開くように、なまぬるいなにかが柿村の口内に侵入してきた。うねりながら唇を押し分け、歯をこすり、舌先にからみつくそれは、どこか蛇を連想させるようにのたくって、どろりとした感触を喉の奥にたらしてくる。
「んぐぅっ……」
 反射的にえづきそうになるが、頬に添えられた手に力がこもると、それすら抑え込まれてしまう。縮こまる舌をねぶるように、それは身をこすりつけてくる。ぞわり、と首のうしろから腰のあたりまで、脊椎をたどるように波打つ感覚が這い降りる。表から、裏から、舌の形を確かめるように粘液まみれのその身をこすりつけるその度に、後頭部に光が瞬いて、背骨がびくびくと震えるのだ。
「んぁ……」
 舌――だ。
 やっと、柿村菊は気づいた。これは舌だ。自分は今、藍町葵とキスをしているのだ。
 ぞわり、と、先ほどまで背中を下りていった何かが、猛烈な寒気を伴って一斉に逆流した。全身から血の気が引いていくようだった。
「んは」
 そんな彼女を見て、葵は喘ぎ声とも笑い声ともつかない吐息をこぼすと、さらに濃密に淫舌を躍らせる。衝撃からかすかに震える舌先に絡みつき、歯茎を這いまわり、舌の裏から付け根のあたりをなめあげる。唇と唇の間からたらりと透明な雫がこぼれ落ちて、豊満な胸元を汚していく。
「んん……っ」
 それはどちらのもらした声だったか。くぐもった喘ぎを流し込むように、葵の口内から柿村の喉に、どろりとした唾液の塊が注がれる。舌先をかすめて食道を転がり落ちるソレに、柿村は心の中で悲鳴をあげた。
 まるで、唾液が血管を通って全身に回り、そのまま毒で死んでしまうような、それほどの嫌悪と忌避があった。
「んは……」
 時間に直して、ほんの一分。
 六十秒の濃密な接吻を終えて、葵はゆっくりと唇を離した。幾本もの透明な橋がふたりの唇をつなぐ。
「あ……う……」
 葵が手を放しても、柿村は動かない。震えながら、呆然と、教え子であるはずの少女を見つめるだけだ。
 こぼれる唾液を手の甲でぬぐって、葵はニヤリと笑った。
「いいの、逃げなくて?」
「あ……」
 言われてはじめて気がついたように、柿村は腰を持ち上げた。後頭部に残る微熱が背骨を震わせて、かすかに腰をよじる。そのさまを笑う葵におびえた目を向けて、新任教師はふらふらと立ち上がった。足がみっともなく震えて、立つのがやっとだった。
「う……」
 資料棚に手をついて、口元からあわ立った唾液をこぼしながら、柿村はやっと本来の目線で葵を見下ろした。自分は教師で、相手は生徒だ。そのはずなのだ。
「ど、どういう、どういうことなの……なんでこんなことをするの。ちゃ、ちゃんと説明して……」
「……おっと」
 呆れたように、葵は乾いた笑みを浮かべた。その笑みが自分を馬鹿にしているのだとはわかっていても、柿村にはまだわからない。まだ、目の前の少女が自分にとって致命的な危険なのだと理解できない。
「ゆとり教育の弊害だね」
 かぶりを振って、葵は指を三本立てた。答えない葵に質問をかぶせようとした柿村が、突然目の前につきだされた幼い指先に声をつまらせる。
「ひとつ、あんたはいい女だ」
 薬指を折る。
「ふたつ、おまけに処女だ」
 中指を折る。
「みっつ――」
 残った人差し指を、その名の通り教師を指差すようにまっすぐ伸ばし、さらに親指を立てる。ピストルを模した右手を、葵は軽く跳ねさせた。
「――はぇっ!?――」
 その瞬間、本当に銃で撃たれたように、柿村の体がガクンと崩れ落ちた。全身から力が抜けたように、しりもちをついてしまう。かろうじてついた腕が転倒だけは防いだが、それもすぐに、くたり、とへたれてしまう。資料棚によりかかるようにして、柿村は震えるばかりでちっとも思うとおりに動かない四肢を困惑した瞳で見つめた。
 これで三度目。前触れもなく、突然、体の自由を奪われる。
 いや。
 前触れはあった。今回はもう、突然だなんていえない。震える視線を、やっと歳がふた桁になったばかりの少女に向ける。彼女が、やっているとしか思えない。
「――あんたはオレの邪魔だ。これが理由の全部だよ」
 そんな柿村を睥睨するように見下して、葵はそう言った。
 まぎれもなく、それは宣告だった。
「じゃま……って……あぅっ!?」
 言葉をさえぎったのは、葵の小さな右足だった。見れば、スカートの内側に上履きをはいたままの足がもぐりこんでいる。股間に狙いを定めて放たれたつま先が、布越しに秘所をつついているのだ。
「な、なにを……」
「壊すって言ったろ。いや、まあ、そこまでする必要はねーけど。時間もないし」
「藍町さん……あなた、いったいどうしたの?」
「んん? メダパニってんのか冷静なのか、わかんねー先生だね」
 苦笑いを浮かべたそんな言葉のあとに、ぐに、と股間に足先が押し込まれた。下着ごし、靴ごしの足の感触が、柿村の秘部を押しつぶす。ぐちゅりという音が、頭の中だけで響いた。
「ぃう……っ」
 弛緩した体ではどうすることもできず、柿村は悲鳴を飲み込むようにして葵を見上げた。
 ロングスカートの内側で、軽くタップを踏むように、リズミカルに右足が踊る。ぐに、ぐに、と強弱をつけてクロッチを踏みしだかれる感触に、柿村は言いようのない屈辱感を覚えた。
「やめ……やめなさい、藍町さん。なんでこんな……」
「さっき言ったじゃん」
 呆れ混じりの笑い声と共に、クロッチにかかる圧力が強くなる。腹から下を丸ごと踏みつけられているような錯覚に、柿村は思わず眉をしかめた。しかも、それはなかなか終わらない。リズムを刻むのではなく、つま先を抉りこむように押しつけているのだ。
「どう、オレの足。感じる?」
「ぅ……うう……」
 力を緩めないまま、葵は前後に体を揺らしはじめた。ぐっ、ぐっ、と右足に体重がかかるたびに、恥丘が潰されていく。度重なる圧迫がお腹の下あたりに重い感覚を溜め込み、圧力に耐えるたびに呼吸が少しずつ荒くなっていく。体を動かそうと力を込めても反応はないが、体力だけは削られているのかもしれない。
「……でも、靴ごしじゃあオレが面白くないな」
 苦悶する柿村を楽しそうに眺めていた葵が、不意に眉をしかめてそう言った。
 体重をかけたまま、思案するように葵が動きを止める。何を考えているのだろう。次は何をされるのだろう。股間に圧し掛かる幼い体重を感じながら、柿村は荒い息をついた。判決を待つ囚人はこんな気持ちなのだろうか。
「よし」
 頷いて、葵は一度足を秘部から浮かせた。ようやっと圧力から解放されて、柿村が安堵の息をつく――

「は―――――ァっ!?」

 ――その油断を嘲るように、衝撃が迸った。
 何か、とてつもなく重いものが落下した。下半身から駆け上がる衝撃の余波に全身が痺れる。その波は脳髄にまで達して、柿村の意識をぐちゃぐちゃにかき回した。
 腰から下が丸ごと吹き飛んだと思うような、それは爆発的な刺激だった。
「ああっ、あ、ぎ、あがっ……」
 知らぬ間に口が開き、喉から肺の中身が飛び出していく。感覚を振り切るほど強烈な刺激の後にきたのは、痺れと、熱と、未経験の激痛だ。一呼吸の速度よりも速く、股間からへそまでを焼いていく。息を吸いたいのに、激痛がそれを許さない。肺の中身が空になってしまう。
「はは」
 かすかに響く幼い笑い声を聴きながら、明滅する意識は唐突に途切れた。 

つづく